イネ縞葉枯病の特徴と農作物への被害、対策方法について

イネ縞葉枯病の特徴と農作物への被害、対策方法について

イネ縞葉枯病は、イネ縞葉枯ウイルスという植物のウイルスによって引き起こされる病気です。カメムシ目のヒメトビウンカが媒介者となり、イネ縞葉枯ウイルスの感染によって発病します。

 

 

被害の特徴

イネ縞葉枯病の特徴と農作物への被害、対策方法について|画像1

 

5月中旬〜下旬に移植したイネが被害を受けた場合、7月中旬頃からイネの新葉が黄白色に退色していきます。新葉は細くなり、こよりのように巻いて徒長し垂れ下がっていきます。その見た目から「ゆうれい病」とも呼ばれます。

イネの生育初期に発病した場合、種子から出た茎の根本から新たな茎が生えてくる「分げつ」が少なくなり、株が枯死します。

分げつ最盛期以降に発病した場合、葉身に淡緑色〜黄白色の縞状の病斑が生じます。

幼穂ができる穂ばらみ期以降に発病した場合、茎の一番上につく「止葉」が黄化し、淡黄色のまだらの筋が表れます。発病した茎では、出穂しないか、出穂しても穂軸や枝梗が波状に湾曲して稔実不良となる「出すくみ穂」となります。

収穫まで発病していない株があるかもしれませんが、感染株の場合は、根元から刈り取られたイネの茎から生えてくる新しいイネ「ひこばえ」に先述した特徴が生じます。また感染株がひこばえとして残ることで、それが媒介者であるヒメトビウンカとイネ縞葉枯ウイルスの増殖源となってしまいます。

ウイルスを媒介するヒメトビウンカの特徴

ヒメトビウンカの形態と生態(画像)は、下記のサイトを参照してください。

manual:start [イネ縞葉枯病に関する情報]

このウイルスを媒介するヒメトビウンカは、一度ウイルスを体内に取り込むと死ぬまで媒介する能力を持っています。ウイルスはヒメトビウンカの体内で増殖し、ウイルスを持った雌成長が産んだ子供へと移行します。ヒメトビウンカは北海道で年2〜3回、関東で年4〜5回、西日本で年5〜6回発生します。

伝染の流れとしては、春に発生した成虫は稲作が始まると水田に飛来し、繁殖を繰り返します。その間、感染株からウイルスを取得します。そしてヒメトビウンカが餌資源であるイネに口針を挿入する際、ウイルスがイネへと伝播します。

また先述した通り、ウイルスは卵を通して次世代の幼虫に移行していきます。

 

 

イネ縞葉枯病への対策

イネ縞葉枯病の特徴と農作物への被害、対策方法について|画像2

 

このウイルスが感染したイネを治療する方法はなく、この病害に遭わないためには感染を未然に防ぐことが重要です。

具体的な対策には、以下のものがあげられます。

ヒメトビウンカの生息場所や感染源を取り除くこと
媒介者であるヒメトビウンカを対象に薬剤防除を行うこと
イネ縞葉枯病抵抗性品種を利用すること

このうち、前者2つについて詳しく見ていきます。

ヒメトビウンカの発生生態を理解する

薬剤防除を行ううえでも、発生生態を理解することは大いに役立ちます。

ヒメトビウンカはイネ以外にムギ類やイネ科の雑草を餌資源としており、水稲栽培が始まる前に成虫となった場合には、雑草地やムギ畑で繁殖しています。たとえば水稲栽培の周辺ほ場でムギが栽培されていると以下のような流れで繁殖を繰り返します。

3月上旬頃から越冬した世代の成虫が発生すると、ムギに留まり産卵します。4月上旬から中旬に産卵のピークを迎え、5月上旬から中旬になると幼虫が孵化、6月上旬には成虫となった個体が水田へとやってきます。

水田では3〜4回発生し、8月上旬頃が大量発生の時期にあたります。イネが収穫されると、周辺のイネ科雑草に移動して産卵。雑草で孵化した幼虫は越冬します。

このように周辺のムギやイネ科雑草への移動を繰り返しながらヒメトビウンカは繁殖を繰り返します。

そのため、対策の1つにはヒメトビウンカの越冬場所となるイネ科雑草(植物)を取り除くことがあげられます。水田畦畔などの雑草管理を秋から冬の間に行えば、ヒメトビウンカの個体数を減少させることにつながります。

またイネ収穫後のひこばえや収穫後の水田に繁茂しやすいイネ科雑草の処理も重要です。イネ縞葉枯病が多発している地域では、ひこばえが発病株である率が高く、ヒメトビウンカがウイルスを媒介する率(保毒虫率)も高くなります。

冬になってひこばえが枯死すれば、ヒメトビウンカもまた死滅していきますが、水田内にイネ科雑草が繁茂したままであれば、ヒメトビウンカが死滅せず、雑草へと移動してしまうため、越冬を許すことになります。

イネ収穫後は水田を必ず耕起し、ヒメトビウンカの越冬を防ぐことが重要です。

病気をまん延させない、ヒメトビウンカを近づけない

加えて、植物に病害が生じた際の基本ではありますが、発病株を見つけたら早期に抜き取り処分してください。発病株が伝染源となるため、すぐに処分しないと病気がまん延する原因となります。

ヒメトビウンカが水田に飛来することを避けるためいん、育苗期間や麦作地帯では田植え直前までの期間、寒冷紗などで被覆するなどして、ヒメトビウンカが近づくのを防ぎます。

薬剤防除のポイント

イネは成長過程の中でウイルス感染しやすい時期としにくい時期があります。幼苗期から幼穂を形成する期間までに感染すると被害が大きくなることから、苗の移植から幼穂形成期の間にヒメトビウンカを防除することが重要です。

なお、農研機構は、ほ場の位置情報や気象データ、移植日や品種情報などをもとに、水稲の生育予測とヒメトビウンカの発生予測を行い、薬剤散布に適した時期を予測するシステムを開発しています(参照サイト一番下)。

このようなシステムなども活用して、防除適期として効果のあるヒメトビウンカの産卵から孵化までの期間に薬剤防除を行い、個体数を抑えることが大切です。

 

参照サイト

(2024年4月1日閲覧)

(2024年4月12日閲覧)

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