農業生産と環境は切っても切れない関係にあります。気候変動による天候不順など、環境が農業生産に悪影響を及ぼすこともありますが、農業生産もまた、効率や生産性を追求するあまり、農薬や肥料の過度な使用、不適切な水・土壌管理によって環境に負荷を生じさせることがあります。
そこで近年では、環境負荷に配慮した環境保全型農業、持続可能な農業に注目が集まっています。環境保全型農業を進めていくためには、化学合成された肥料・農薬の使用を減らすことや堆肥の施用などが重要とされています。
そんな中、日本人に馴染みのあるコメを精米する際に生じる米ぬかによる多様な効果が注目されています。
米ぬか散布で得られる効果
病気が減る
米ぬかはさまざまな効果をもたらしますが、実はいまだにその仕組みはよくわかっていません。ですが例えば「病気の防除」という効果であれば、米ぬかを圃場や作物などに散布することで、農業生産に有用な微生物が増え、病原菌と拮抗したり、抗菌物質を出して病原菌を抑えたりするのではないかと考えられています。
米ぬか散布の方法は、圃場の通路や作物などに米ぬかをふるだけ。有用な微生物を増やすことが目的なので、少量で問題ありません。灰色かび病や菌核病に悩まされていたキュウリ農家が、1番目になったキュウリの収穫後、通路に米ぬかを3kg/1aの量で散布し、2週間後にもう一度ふったところ、病気が抑えられたそうです。
米ぬかだけの効果ではありませんが、米ぬかと環境浄化微生物資材「えひめAI」を土壌に散布し、その後マルチを張り太陽熱処理を行えば、病気と雑草を抑えることもできます。
雑草対策になる
有機栽培における雑草対策としても米ぬかは役立ちます。中央農業総合研究センターの研究報告によると、土壌表面への米ぬか散布がイヌビエ等の水田雑草の発芽を抑制することが報告されています。
研究報告によると、この試験で機械による除草のみを行った区画を設定していなかったことから、米ぬかのみでの抑草効果は明らかになっていません。米ぬか分解時に生成される有機酸による雑草の発芽、抑制への影響が解析中のため、米ぬか散布による雑草抑制のメカニズムもわかっていません。
とはいえ、米ぬか処理量に応じて雑草の残草量が少なくなっていることから、“米ぬか散布が抑草に貢献していた可能性は高い”とありました。
また農業協同組合新聞の記事では、水田に米ぬかを散布した場合、土壌表面で還元作用が起こり、酸素が欠乏することで雑草の発芽が抑制されるのではないか、という考察もあります。
害虫対策にも
米ぬか散布により増えるカビの一部が、害虫にも効果を示す例があります。埼玉県の狭山茶の産地では、茶樹に米ぬかを撒いたことで害虫・クワシロカイガラムシにカビが生え、死滅させることができたとのこと。ナスやネギなどの害虫・アザミウマにも効果的だと言われています。
米ぬか散布時の注意点
病害虫や雑草対策に役立つ米ぬかですが、使用する量には注意が必要です。
米ぬかは栄養豊富なため、散布する量が多すぎるとカビや増えすぎてしまったり、ナメクジなどが増えたりする可能性があります。また微生物は米ぬかを分解する過程で土壌中の窒素を使うのですが、散布量が多いと分解に必要な窒素量も増えます。すると、土壌が窒素飢餓の状態となり、作物に窒素が行き渡らなくなってしまいます。
使用する際は一度にたくさんまくのではなく、様子を見ながら少量ずつ散布しましょう。
参考文献