今さら聞けないよく耳にする植物の病徴②内部病徴、標徴について

今さら聞けないよく耳にする植物の病徴②内部病徴、標徴について

植物が病気にかかると、肉眼で分かる異常、「病徴」が見られるようになります。病徴には植物外部に見られる「外部病徴」と組織内部を観察する必要がある「内部病徴」があります。

本記事では、さまざまな病徴の中でも「内部病徴」に着目していきます。また病徴とは違う「標徴」についても紹介していきます。

なお、特徴的な外部病徴については以下の記事を参照してください。

関連記事:今さら聞けないよく耳にする植物の病徴①立枯れ、萎凋、わい化など

 

 

内部病徴

今さら聞けないよく耳にする植物の病徴②内部病徴、標徴について|画像1

 

外部病徴の場合、植物全体や植物の一部分、特定の器官などに異常があらわれますが、内部病徴の場合は、解剖などにより植物の組織を肉眼や顕微鏡などで観察しないとみることができません。代表的な内部病徴は以下の通りです。

  • 維管束部の褐変
  • 師部の壊死

維管束部の褐変は、病原である微生物(菌類、細菌、ウイルス)に感染したことで導管が枯れて損傷し褐色化したものです。維管束部の褐変、すなわち導管が損傷すると水を運ぶ機能に障害が起こるため、全身的な萎凋や立ち枯れ症状につながることが多いです。この内部病徴は、キュウリつる割病、ナス半身萎凋病、トマト萎凋病(以上菌類病)、ナス科作物青枯病(細菌病)などで観察されます。

師部の壊死はウイルスやファイトプラズマの感染によって引き起こされます。養分の通り道である師部が破壊されると、光合成産物の移動が困難になるため、植物の生育が阻害されるなどの影響が及びます。この内部病徴はウイルスによって引き起こされるジャガイモ葉巻病や各種ファイトプラズマ病などで観察されます。

そのほか、「封入体」と呼ばれる内部病徴があります。封入体とは、一部のウイルスに感染することで、宿主である植物の細胞内に異物が蓄積して形成される、特定の形や構造をとった異常構造物を指します。ウイルス感染のほか、生理的なストレスなどによっても形成されます。

封入体の種類は、形状や成分、形成される原因によってさまざまです。代表的なものにタバコモザイクウイルス(TMV)に感染した植物にできる不定形の封入体や、カリフラワーモザイクウイルスに感染した場合にはウイルス粒子を蓄える封入体、また生理的なストレスによって形成される結晶状封入体などがあげられます。

多くの封入体は電子顕微鏡を用いないと確認することができません。ただし、TMVの封入体は非常に大きいため、光学顕微鏡でも観察することができます。

 

 

標徴

今さら聞けないよく耳にする植物の病徴②内部病徴、標徴について|画像2

 

標徴も病徴同様、植物の病気や状態を診断する上で重要な手がかりとなりますが違いがあります。

病徴は病気そのものが引き起こす、客観的に観察できる異常を指します。一方標徴は、細菌や菌類による病害の場合に、感染した組織の外部で病原体が増殖・露出し、肉眼やルーペなどで観察できるようになったものを指します。なお、病徴が標徴そのものという場合もあります。

具体的には、うどんこ病で生じる作物表面の白い粉(胞子)やキュウリべと病で生じるカビ、菌核病のような病変表面に生じるネズミの糞状の菌核などを指します。基本的にはいずれも菌の集合体であったり、胞子形成器官だったりと重要な感染源となるので、病気が蔓延するのを防ぐためにも、標徴が見られた際には対応に注意が必要です。

植物の表面で観察される粉状のもの

これらは菌類の胞子が集まってできた塊や菌糸体※1です。うどんこ病やさび病、もち病や黒穂病などで見られます。

※1 まず、菌糸とは菌類が伸ばす糸状の細胞のこと。菌糸は周囲の有機物などを栄養分として取り込み成長する。菌糸が束になったものは菌糸体という。

カビ

そもそもカビとは、ある特定の生物の名称ではなく、酵母やキノコを含めた真菌と呼ばれる微生物の一群を表します。病気に罹った植物の表面に見られる綿ほこり状のものなどは、これら微生物の菌糸や分生子※2が集まってできた塊で、菌の集団、菌の集落といえます。カビはイチゴ灰色かび病、キュウリべと病などで見られます。

※2 分生子とは、「菌糸の一部がのび、その先がくびれてできる特別な胞子」のこと。「アオカビやコウジカビなどの子のう菌類の無性生殖のとき見られる」。一方、有性生殖による胞子は「子のう胞子」。これは子のうの中にできる胞子で、菌糸の中の核が合体したのちにできる。(引用元:ぶんせいし【分生子】 | ふ | 辞典 | 学研キッズネット

菌糸体

標徴として現れる菌糸体は、菌糸が束状や羽毛状、膜状に罹病部を覆った状態を指します。菌糸1本だけでは肉眼で観察することができませんが、菌糸体は多くの菌糸が束状に集合するため、肉眼でも観察できます。白絹病や白紋羽病、紫紋羽病などで見られます。

小黒点

病気に罹った植物の組織上にみられる小さな黒点状の構造物は、菌類の胞子形成器官であることが多いです。うどんこ病や炭疽病、つる枯病や斑点病などで見られます。“胞子形成器官”であるだけに、病気発生時に見られる小黒点は重要な感染源となるので注意が必要です。

粘質物

病気になった植物の茎や葉、果実などにできる斑紋の表面に、鮭肉色の粘質物が見られることがあります。これは炭疽病菌の分生子層です。また、枝枯病や胴枯病の場合は黄から黄褐色のゼラチン状の突出物が見られ、これは原因菌の分生子を含む胞子形成器官であることが多いです。

菌核

罹病部やその周辺でみられる、ケシ粒ぐらいの大きさからネズミ糞ぐらいの大きさの黒色や褐色(黄色のものもある)の硬い構造物を指します。菌核は菌糸が高密度に集まって塊となったもので、生育に適さない環境下に耐えるため、次作物への感染源となります。菌核病やムギ麦角病などで見られます。

菌泥

菌泥は、大量に増殖した細菌が粘液状の物質でくっつき合ってできた塊のことを指します。キュウリ斑点細菌病の場合、果実などの表面に白濁した水滴が付着します。ナス科植物の青枯病では、土壌中の細菌が植物の維管束内に侵入して菌泥を形成し、それにより植物が枯れてしまいます。切断した茎葉の切り口を水中に浸すと、導管部から白色の漏出物(菌泥)が出てくるのが特徴です。

シスト

標徴としてのシストは、シストセンチュウに感染した株の根にくっついた乳白色~茶褐色のアワ粒状の構造物です。シストは「雌成虫が卵を内蔵したまま体表に硬い膜を作り死亡した状態のこと」です(引用元:大豆-ダイズシストセンチュウ/茨城県)。シストは低温や乾燥に対する耐久性が強く、そのうえ内蔵された卵は土壌中で数年間生存します。一度発生してしまうと完全になくすことが難しくなるため、被害が発生した場合には、未発生ほ場への侵入防止を心がけます。

 

参考文献:夏秋啓子編『植物病理学の基礎』p.19〜23(農山漁村文化協会、2020年)

参照サイト

(2024年8月22日閲覧)

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