「灰色かび病」はその名の通り、灰色のかびが生じる病気で、野菜、果樹、花きなどさまざまな作物に被害をもたらします。特にトマトやイチゴなどの重要な作物において、収量や品質に大きな影響を与えることから、その予防と対策は農業従事者にとって重要な課題です。
灰色かび病の特徴
灰色かび病は、Botrytis cinereという菌類によって引き起こされる植物病害です。この病気は、果実、花、茎、葉など植物の地上部のあらゆる部位に発生します。果実では、くぼんだ大型の斑点が生じ、表面に灰色のかびが密生します。苗の葉や茎、葉柄に発生すると、褐変をともなう灰色のかびが生じます。
また咲き終わった花や古い花弁などに発病すると、そこから他の部位へと感染が広がったり、発病した花が葉・茎・葉柄上に落ちる、病斑に触れるといったことがきっかけで、触れた箇所に淡褐色で円形で(不整形や輪紋のあるものもある)大型の斑点が生じ、表面に灰色のかびを生じます。
感染が進むと植物全体の枯死につながります。
病原菌の特徴、発生しやすい条件
灰色かび病を引き起こすBotrytis cinereaは、多くの植物に感染する性質を持ちます。植物の傷口や枯死した組織から侵入します。伝染源となるのは、病原菌の被害を受けた作物の組織中で越冬した菌糸や分生子です。
灰色かび病は、温度が20℃前後で湿度が高い環境で発生しやすくなります。また、日照不足や曇天が続く場合もまた、この病気が発生しやすい条件となります。加えて、朝夕の急激な冷え込みも、発生を助長する要因となります。
施設栽培では、その年の気象が平年並みであれば春先(2〜3月)に発生し始めますが、暖冬などの影響で気温が高い場合には平年より早い時期に発生する傾向があります。
灰色かび病の意外な役割
灰色かび病は作物の収量や品質に大きな影響を与える病害である一方、ブドウの果実においては利用価値のある影響を与えるものでもあります。高級なデザートワインとして知られる貴腐ワインの原料となるブドウの貴腐果は、特殊な条件で灰色かび病菌に感染したブドウの果実です。適切な時期に適切な程度で灰色かび病になると、果実の水分が減少して糖度があがり、貴腐果としての価値が高まります。
灰色かび病の予防・対策
灰色かび病の予防には、環境管理が非常に重要です。
環境管理の徹底
発生しやすい条件を避けることが大切です。特にハウス栽培においては、適切な換気をはかり、施設内の湿度を下げることが最も基本的な対策となります。またやや低温な条件下で発生しますから、温風暖房機を使用するなどして加温すると被害が少なくなります。
土壌からの湿気を防ぐためにマルチ被覆を行うことも有効です。マルチ被覆は湿度の低下と、土壌からの感染を防ぐのに効果を発揮します。
圃場衛生の徹底
灰色かび病は、感染した花弁や果実が他の部分に接触することで感染が拡大します。そのため、被害を受けた箇所を早期に除去することはとても重要です。もし枯死した部分や腐敗した果実を残しておくと、病原菌がその上で繁殖し、伝染する原因となるため、被害部分は圃場外、ハウス外に持ち出し、適切に処理してください。
適切な肥培管理
窒素過多で植物が過繁茂な状態になると、植物の生育が軟弱になり、病気にかかりやすくなります。そのため、窒素肥料の過剰な施肥に注意し、適切な肥培管理に努めます。
予防的な薬剤散布
必要に応じて薬剤防除を行います。特に、曇天や多湿な気候条件が続く場合には、事前に薬剤を散布しておくことで病原菌の繁殖を抑えることができます。ただし、同じ薬剤を連用すると耐性菌が発生しやすいので、異なる系統の薬剤を使用したローテーション散布を行ってください。
参考文献:夏秋啓子『植物病理学の基礎』(農山漁村文化協会、2020年)
参照サイト
(2024年9月19日閲覧)