本記事では、似たような症状の病害の見分け方や、記事前半では病気を媒介する昆虫に着目し、どのような病気を媒介するのか、病害対策の共通点についてご紹介していきます。
ウイルス病、ウイロイド病の基本的な症状
ウイルスやウイロイドは細胞構造をもたず、自己増殖機能を欠く病原体で、一般的な生物の定義からははずれたものとされています。なお、ウイロイドはウイルスよりも小さな病原体で、その特徴は以下の通りです。
- 塩基数200〜400程度の環状の一本鎖RNAで構成されている
- ウイルスと違い、外被タンパク質をもたない
- 熱や紫外線に対して比較的安定である
ウイルスとウイロイドの間には違う特徴があるものの、ウイルスやウイロイド由来の病気に罹った植物の症状から、病原体がウイルスかウイロイドであるかを見分けるのは困難です。
そんなウイルス病、ウイロイド病ですが、代表的な病徴には以下のものがあげられます。
- モザイク症状(葉の緑色に濃淡が生じ、モザイク状になる)
- 黄化症状(葉が黄化し、葉縁が下方に巻く。側枝が伸長しない)
- 葉腋帯緑症状(葉脈がのみが濃い緑色になる)
- えそ症状(葉などにえそ斑※1や輪紋斑※2を生じる)
- 葉脈の奇形症状(葉脈が異常に太くなる)
※1 えそ(壊疽)は「壊死 (えし) の状態から、腐敗菌感染などのためにさらに悪化したもの」を指す(出典元:小学館 デジタル大辞泉)。えそ斑とは、褐色のえそ状の病斑を示す。
※2 へこんだ同心円状の模様(病斑)を表す。
アブラムシ類由来とアザミウマ類由来
ウイルス病、ウイロイド病の代表的な病徴にあるモザイク症状を引き起こすのがモザイク病です。一方、えそ斑を生じさせるものは黄化えそ病と呼ばれます。前者はアブラムシ類由来の病気で、後者はアザミウマ類由来の病気です。
それぞれの病気の症状には違いがあるので区別しやすいかと思いますが、いずれの病気も発生時期は春から秋にかけてです。春〜秋は、アブラムシ類、アザミウマ類ともに発生しやすい時期となっています。
いずれも発病してから有効な薬剤はありません。そのため、予防のためにはウイルスを媒介するアブラムシ類、アザミウマ類を防除する必要があります。いずれの病気も、それぞれの害虫に適用のある薬剤を散布して防除したり、防虫ネットをかけたりといった対策が重要です。
また病気の株に触れた手指が健全な株に触れることでも病気は伝染します。発病した株は根から抜き取り、圃場とは別の場所で処分することが大切です。
青枯病と萎凋病、半身萎凋病の違い
褐変がみられる維管束を水につけると……
青枯病とは、健全に育っていたはずの作物が日中に突然萎れ、2〜3日のうちに葉が緑色のまま枯れてしまう症状が見られる病気です。この病気の病原体は細菌です。
青枯病は他に、茎の断面を観察すると、維管束の部分に褐変がみられるといった症状があります。ただし、この維管束の褐変は、菌類を由来とする萎凋病(または立枯病、ウリ科ではつる割病)、半身萎凋病といった病気でも見られます。
とはいえ、青枯病と萎凋病、半身萎凋病には違いがあります。
青枯病の場合、茎葉が萎れた株の茎を輪切りにし、その切り口を水に挿入すると、白濁した「菌泥」と呼ばれるものが滲み出てきます。萎凋病、半身萎凋病ではこの白濁液が滲み出ることはありません。
菌泥とは「細菌細胞そのものの集合が粘液状になったもの」です(出典:質問と回答 – Arie’s Plant Pathogen Class Information)。
発生時期にも違いが
維管束部分の褐変が共通の症状でありながらも、切り口を水につけると異なる反応を見ることができる青枯病と萎凋病、半身萎凋病ですが、病気自体の発生条件には違いがあるので、そこから見分けることもできるといえます。
青枯病は晩春から秋にかけての高温時期、地温17〜30℃の場合に発生しやすい病気です。特に夏に発生しやすい病気です。
一方で、萎凋病は発生しやすい季節の表記こそ「晩春〜秋」で共通していますが、発生しやすい時期に盛夏は当てはまらず、多発する地温条件は15〜25℃と、青枯病に比べるとやや温度が低くなります。
そして半身萎凋病では、春〜梅雨期にかけて発生しやすく、早春や秋季といった地温が20℃前後の比較的温度の低い時期に発生しやすいです。
根に生じたコブの見分け方
病気、あるいはセンチュウ類は作物の根にコブを生じさせます。根こぶ病によるものなのか、ネコブセンチュウ類によるものなのかは、コブの特徴で見分けることができます。
まず、ハクサイやキャベツといった「アブラナ科」の植物の根に大小不整形のコブが生じた場合には根こぶ病が疑われます。根こぶ病はアブラナ科の植物にしか感染しない特徴があります。
一方、アブラナ科以外のトマト、ナス、キュウリ、ニンジンなどで小さなコブ、数珠くらいの大きさのコブが生じた場合、あるいはそのようなコブが重なることで大型の不整形なコブが生じた場合にはネコブセンチュウ類が疑われます。
なお、アブラナ科植物もネコブセンチュウ類の害を受けます。根こぶ病の場合は、こぶの形がごろっとした見た目をしていますが、ネコブセンチュウの場合はこぶそのものが小さく、根のところどころが膨れるか、ジュズ状につながっているかのいずれかとなります。
ただし、根こぶ病の初期とネコブセンチュウの症状は似ているため、見分けにくい場合には根の切片を顕微鏡を使って検査します。センチュウが見られたり、卵があればネコブセンチュウ類と判断されます(根こぶ病の場合、根こぶ病菌の変形体または休眠胞子が見られた場合に根こぶ病と診断されます)。
コブができる植物の病害には根頭がんしゅ病もあります。この病気は主に多くの果樹や樹木に発生します。根や幹の地際部に表面がざらついた大小のコブが形成されます。この病気は細菌によって発生し、発病した苗を植えるとほかの苗にも伝染するので注意が必要です。
参考文献:米山伸吾他『新版 仕組みを知って上手に防除 病気・害虫の出方と農薬選び』(農文協、2022年)
参照サイト
- 植物病害を引き起こす病原体まとめ。細菌類と菌類、ウイルスの違いとは – 農業メディア│Think and Grow ricci
- えそ病|農研機構
- 輪紋病 | 農研機構
- 病害虫・生理障害 – ナス
- 質問と回答 – Arie’s Plant Pathogen Class Information|東京農工大学
- 【植物の病害あれこれ】根こぶ病について。根こぶ病の原因や防除法を紹介
- アブラナ科野菜根こぶ病の分類・同定と保存法
- 根頭がんしゅ病 | 農研機構
- 島根県:根頭がんしゅ病(トップ / しごと・産業 / 農林業 / 技術情報 / 農業技術情報 / 病害虫防除所 / 病害虫データベース 目次 / ブドウ)
(2024年7月4日閲覧)