病害の「発生」を防ぐために。耕種的防除法まとめ

病害の「発生」を防ぐために。耕種的防除法まとめ

耕種的防除法とは、栽培環境や作付の工夫を通じて病害虫の発生を抑える防除法です。農業において重要な手段の一つである耕種的防除法は、農薬に依存せず、環境に優しく、コストも比較的低いという点から、持続可能な農業において注目を集める技術です。

本記事では、病害虫の発生を抑え、植物の健康を守るための多様な技術が組み合わさった耕種的防除法の具体的な手法や効果について紹介していきます。

 

 

耕種的防除の具体的な手法

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圃場の衛生管理

耕種的防除法の中でも最も基本的な取り組みが圃場の衛生管理です。農作物を病原菌から守るために、圃場内に病原体を持ち込まない、病原体が蔓延しないようにすることなどが求められます。

特に、病原体の温床となり、病害虫の発生源となる収穫後の作物残渣は適切に処理する必要があります。作物残渣の処理方法には、土中深くに埋める、丈夫なプラスチック素材などの袋につめて密閉し、微生物による分解を促進するといった方法があります。

圃場周辺に生えている雑草も病原体の温床となるため、こまめな除草を行い、防除に努めます。

それから、農作業中に着用した長靴、圃場の耕起・耕転を行う際に用いる農機具やトラクターなどの機器の洗浄、消毒も忘れてはなりません。これもまた、病原体が圃場または別の圃場に持ち込まれないようにするためです。

温度と湿度の管理

施設栽培において、病害虫の発生を抑えるために重要なのが、温度と湿度の管理です。特に病気をもたらす菌類は高湿度の環境下で活発に活動します。たとえば灰色かび病やべと病などは相対湿度が高くなると発生しやすくなります。よって、これらの病気が発生するのを抑えるためには、施設内の湿度を下げ、結露を防ぐことが重要です。

病害虫の発生を抑えるための具体的な手段としては、温風暖房機による送風や、ハウス内の湿度を調節する資材の使用が挙げられます。送風は結露量の減少につながります。資材については、外張りには防霧性のフィルムを、内張りには吸放湿性フィルムなどを使用するのがおすすめです。

排水設備を整える方法もあります。地中潅水を導入して、根圏に必要な水分のみを供給することで、潅水量が抑えられます。それにより、ハウス内の湿度を効果的に低下させることができます。これにより、病害の発生リスクを減少させることが可能です。

輪作、対抗植物、混植、田畑転換

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同じ作物を同じ圃場で連作し続けると、特定の作物に寄生する病原菌の密度が連作によって高まり、病害が発生しやすくなります。異なる科の作物を交互に栽培する「輪作」を行うことは、病原菌の生存を抑制し、病害の発生を抑えることにつながります。

対抗植物は、主にセンチュウに対して効果を示すものがあげられます。たとえばマリーゴールドやヘイオーツなどの植物を栽培することで、センチュウの増殖がおさえられます。

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また、「おとり作物」とよばれる植物の利用も、耕種的防除法の一つです。この作物に対して、土壌中の病原菌は積極的に感染しますが、その後病気を拡大することができずに病原体は死滅します。アブラナ科植物に特有の根こぶ病対策に用いられる「葉ダイコン」は、まさにおとり作物です。

一方、混植は、異なる作物を一緒に栽培することで病害虫の発生を防ぐ方法です。たとえば、キク科のレタスとアブラナ科のブロッコリーを混植すると、互いの病原菌や害虫を抑制する効果があります。

田畑転換も効果的な防除手段です。水田を畑地にすると土壌環境は劇的に変わります。ゆえに、水田という環境で生きている病害虫や雑草の密度を減らすことにつながります。その逆も同じで、畑地から水田に戻せば、畑地に生息していた病害虫や雑草の密度を減らすことができます。

栽培管理

作付時期や肥培管理などは直接的に病原をおさえるわけではありませんが、病害を回避することにつながります。

たとえばハクサイ根こぶ病菌は高温期に活発になります。よって夏場は育苗のみとし、定植は涼しい時期になってから行うことで病害を抑えることができます。

肥培管理も同様です。たとえば窒素過多で育てられたイネがいもち病に弱いことが知られているように、窒素過剰の状態は植物を軟弱にし、病害を助長します。一方で、窒素が不足してもイネごま葉枯病やキュウリべと病といった病気が発生しやすくなります。

健全に育った作物は病害に強いといわれていますから、適切な施肥を行い、バランスの取れた肥培管理を行うことが病害の軽減につながります。

そのほか、適正な栽植密度を保つことや、健全な種苗を使用することも、病害虫から作物を守るために重要です。

土壌管理、排水対策

土壌の状態や水はけも病害発生に関係します。たとえばジャガイモそうか病はpH5.2〜5.5の酸性土壌であれば発病が抑制されます。ただし、土壌pHが低い(酸性土壌)と糸状菌由来の病気が発生しやすくなるため、栽培する作物が好む土壌pHとその土壌で起こりうる病害について理解し、対策を練ることも大切です。

水はけを良くすることも大切です。過剰な灌水や水はけが悪い状態は、植物の生育に悪影響を与え、土壌病害の発生や蔓延につながります。圃場の水はけが悪い場合には、水を通さない固い耕盤層を破壊したり、高畝にしたりといった排水対策に努めます。

抵抗性品種の利用

抵抗性品種とは、特定の病害に対する抵抗力を持つように育種された作物のことです。抵抗性品種の利用は、病害防除において非常に有効な手段です。ただし、すべての病害に対して抵抗性品種が存在するわけではありません。

そこで、接ぎ木栽培が有効な場合もあります。接ぎ木栽培では、病害への抵抗力を持つ台木に別の品種を接ぐことで、土壌からの病原菌の侵入を防ぎます。この方法は、特に収量や品質を重視しつつ病害を避ける場合に効果的です。

 

参考文献

  • 夏秋啓子編『植物病理学の基礎』p.159〜166(農山漁村文化協会、2020年)
  • 日本植物防疫協会編『農薬概説2021』p.191〜(日本植物防疫協会、2021年)

参照サイト

(2024年8月26日閲覧)

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