アブラナ科に発生しやすい「病害」とその対策(キャベツ、ハクサイ、ダイコン)【前編】

アブラナ科に発生しやすい「病害」とその対策(キャベツ、ハクサイ、ダイコン)【前編】

本記事はアブラナ科(キャベツ、ハクサイ、ダイコン)に発生しやすい「病害」とその対策についてまとめたものです。

 

 

アブラナ科作物に発生しやすい代表的な病害

アブラナ科に発生しやすい「病害」とその対策(キャベツ、ハクサイ、ダイコン)|画像1

 

アブラナ科の作物に共通して発生する病害として代表的なものは以下の通りです。

  • 根こぶ病
  • 黒腐病
  • 黒斑細菌病
  • 軟腐病
  • 黒斑病
  • 菌核病
  • 白さび病
  • べと病
  • 苗立枯病

前編では根こぶ病から軟腐病まで、後編では黒斑病から苗立枯病までの特徴や発生要因、防除方法について詳しくまとめます。

 

 

病害の特徴、発生要因、防除方法

アブラナ科に発生しやすい「病害」とその対策(キャベツ、ハクサイ、ダイコン)|画像2

 

根こぶ病

根こぶ病は、アブラナ科の作物に広く発生する土壌伝染性の病害です。病原菌であるPlasmodiophora brassicaeは土壌中に生息し、植物の根に感染して特徴的な「こぶ」を形成します。

感染初期は、主根や支根に大小のこぶができます。ネコブセンチュウによってつくられるこぶより大きいのが特徴です。

幼苗期に感染が起こると、主根に大きなこぶができるため、地上部の生育が阻害され、乾燥したり高温になったりした時には株全体が萎凋します。ただし、感染の程度がごくわずかな場合には、地上部の様子では病気の判別ができません。被害の程度に応じて、生育の遅延や葉色の退色、結球の小型化などの影響が現れます。最終的に感染が甚大になると、作物が生育途中で枯死することもあります。

病原体の最適温度は20〜25℃で、8月下旬定植の栽培では、気温の高い9〜10月に根こぶ病が発生します。また酸性土壌(pH 4.5〜6.5)で多発しやすく、日長時間が月平均12時間以上になると発病が助長されるとされています。

根こぶ病は一度発生すると、長期にわたって圃場に影響を及ぼすため、事前の防除策が重要です。

根こぶ病が多発しやすい土壌環境を避けることも防除策の一つです。土壌pHを確認し、賛成の場合は石灰などを使って適度に調整するといった土壌管理や抵抗性品種の導入、化学薬剤の使用を組み合わせて、被害を最小限に抑えることが求められます。たとえば根こぶ病が発生する圃場では、オラクル顆粒水和剤やネビジンSC、バスアミド微粒剤などの土壌処理剤を用いることが効果的です。

そのほかアブラナ科作物の連作を避け、イネ科やマメ科などとの輪作を行うことで、土壌中の休眠胞子の密度を低減させることもおすすめです。

黒腐病

主に Xanthomonas campestris という細菌によって引き起こされる病気です。キャベツにおいては生産現場での発生件数が多いとされており、またアブラナ科作物を連作しているほ場で多発しやすい病気でもあります。

作物ごとに細かな症状は異なりますが、まず子葉や外葉の縁が黄化し、葉脈が黒く変色し、やがて病斑を生じます。その後、進行するにつれて葉全体に病斑が広がり、最終的には作物全体の枯死につながります。また、症状が激しくなると茎や根が侵され、導管の黒変が見られるのも特徴の一つです。

5月頃と9~10月頃の比較的気温が低い時期に発生しやすく、また、秋の雨が多い時期に多発しやすいです。この病気は台風や虫害などで葉に傷がつくことで発生が助長されます。

1次伝染源となるのは汚染された種子と被害残渣中の病原菌です。特に、被害残渣に潜む病原菌は乾燥に強く、乾燥した状態でも1年以上生存します。先述したように、雨が多い時期などに多発しますが、それは雨粒とともに病原体がはね上がり、傷口や水孔から侵入することによるものです。

黒腐病の主な対策には、予防的に銅水和剤や抗生物質剤を散布することが有効です。また、病気の発生が予想される圃場では、排水対策を徹底してください。土壌中の湿度を適切に管理することも大切です。強風や台風の後など、多発に関わる状況下では速やかに農薬を散布することも推奨されます。また、病原菌が種子を通じて伝染するため、健康な種子を使用することもおすすめです。

黒斑細菌病

黒斑細菌病はPseudomonas syringae pv. maculicola という細菌によって引き起こされる病気です。葉に小さな水浸状の斑点が生じ、後に黒褐色の角張った斑点となるのが主な症状です。病斑が進行すると、葉脈に区切られた不整形の斑点となります。不整形の斑点はべと病や炭疽病の病斑に似ているため、区別が難しくなります。また病気の進行で根部内が黒色〜褐色に変色することがあります。一見、黒腐病や軟腐病の症状にも似ていますが、黒斑細菌病の場合、根の内部が軟化・腐敗する黒腐病や軟腐病と違い悪臭を放つことはありません。

病気が進行すると落葉しやすくなり、根の肥大も悪くなります。

この病気は春と秋に発生が多いとされ、温暖で多雨な時期に顕著な発生が見られます。高冷地の夏まき栽培や高温時の栽培で発生しやすい病気でもあります。そのほか、粘質土壌に比べると砂質土壌の方が発生しやすく、窒素質肥料の不足などで作物の発育が衰えた時に多発します。

黒斑細菌病は種子に付着した病原細菌によって伝染します。土壌中の細菌は風雨によって飛散し、気孔や食害痕などから侵入して病気を引き起こします。

防除対策として健全な種子の確保が最も重要です。

そのほか、耕種的防除の観点では、葉や根部に傷をつける害虫の防除に努める、密植を避ける(過繁茂になるのを避ける)、肥料切れを起こさないようにする、土壌はねを防ぐマルチや雨よけを設置するなどがあげられます。化学的防除の観点では、銅剤や抗生物質剤の使用による薬剤防除が中心ですが、耐性菌が出現しているため、ローテーション散布を心がけてください。

軟腐病

軟腐病はアブラナ科野菜(キャベツ、ハクサイ、ダイコンなど)において代表的な腐敗性病害です。この病気は特に夏期の高温多湿条件で発生しやすく、葉や根元から組織が水浸状に褐変して腐敗します。進行が早いのが特徴で、感染株は急速に腐敗し、特有の悪臭を放つため、流通においても問題となることがあります。

軟腐病の病原体はErwinia carotovora subsp. carotovoraという細菌です。雑草を含む植物の表面や土壌中などに生息しており、0〜40℃の環境下で生き残る細菌です(生育最適温度は30℃)。雨が続くような高温多湿な条件で発生し、雨などによる水跳ねによって、植物の傷口や気孔などを通じて侵入し、感染・発病します。8〜10月に多発するほか、窒素肥料の過剰施用も病気を助長する要因です。

軟腐病は早期発見と適切な管理が重要です。そのため、防除対策には圃場が水分過多にならないよう畝を高く作り、排水性を高めるなどの圃場管理のほか、感染経路となる傷口、害虫による食害痕を作らせないために害虫防除を行うことなどが有効です。先述したように、窒素過多にならないような施肥管理ももちろん重要です。

また、罹病した株は早期に抜き取り、圃場外で処分してください。

予防的に行う薬剤散布も効果的です。発生初期に、抗生物質剤や銅剤などの予防散布が有効です。ただし耐性菌の発生を防ぐために、連用は避け、ローテーション散布を行うことが推奨されています。

黒斑病

黒斑病は糸状菌(カビ)の一種によって生じる病気で、葉に黒い斑点ができることが特徴です。20〜30℃で発病する黒斑病は、温暖で湿度が高い条件で発生しやすく、初めは水浸状で円形の粟粒大の斑点が生じます。その斑点は、徐々に周辺が不鮮明で中央部分が淡褐色の斑点へと変化。症状が進行すると、黒色円形で同心輪紋状へと拡大します。湿度が高い条件では、中央部に黒色、すす状のかびが生じます。

防除対策としては、病原菌が活動しやすい多湿条件を避けるために、密植を避け、風通しをよくすることが推奨されます。また発病した作物は速やかに取り除き、感染が拡大するのを防ぎます。

多発生してからでは防除が難しいので、発生初期に適用のある薬剤を畑全面に丁寧に散布します。「アミスター20フロアブル」や「ロブラール水和剤」などの薬剤が有効な薬剤として知られています。

菌核病

菌核病は子のう菌類に属する糸状菌(カビ)の一種によって発生する病気で、病気が進むと、特徴的な黒色の塊である菌核を形成します。はじめはやや水浸状の小さな病斑が見られます。この病斑は次第に拡大して灰色の病斑となりますが、湿度が高くなると、葉や茎、果実などが白い綿毛状のカビに覆われます。この病気は茎葉や花梗でも発生し、症状が進むと枯死してしまいます。この枯死した周辺部位や茎の中に、ネズミの糞ほどの大きさの黒色の菌核が形成されます。

この病気は主に20℃前後で降雨が多いときに発生します。露地では4月頃から梅雨の時期に発生します。また、3月下旬から4月上旬ごろの、曇りや雨が続いて梅雨のようなぐずついた天候が続く時期に茎葉が繁茂すると発生しやすいです。低温の時期に収穫する場合には、結球期〜収穫期に発生するため、注意が必要です。

低温時に収穫する作型では、結球期〜収穫期に菌核病が発生する。前年度に発生した圃場では多発することがあるので、早めに薬剤を株の地際部に丁寧に散布する。〜なお、耐性菌が発生するおそれがあるので連用は避ける。多発圃場では水田にするか、夏場に1〜2カ月湛水することで被害が減少する。

防除対策として、湿度の高い条件が発症リスクを高めることから、葉が茂りすぎないよう、適切な株間を保ったり、茎葉が過繁茂にならないよう適宜葉をつみ取ったりすることで風通しをよくすることが大切です。また感染した株を見つけたら、早期に取り除き、圃場の外で処分することで、病気が拡大するのを防ぎます。

圃場に病原菌が残らないよう、連作を避ける、土壌消毒を行うことも有効です。菌密度を低下させるために、水田との輪作を行うのも有効な手段です。

また予防策や初期発生時に適用のある薬剤を散布するのも有効です。ただし、耐性菌が発生する可能性があるため、同じ薬剤の連用は避けてください。薬剤散布と合わせて、生物的防除や物理的防除を含む総合的害虫管理(IPM)を導入することも、農薬の使用量を減らし、病害の発生を抑制するための重要な手法です。

白さび病

野菜類に発生する「さび病」にはネギ類に発生する「さび病」と「白さび病」があり、アブラナ科の野菜に影響を与えるのが白さび病です。さび病の病斑が「さび」を思わせる橙色を示しているのに対し、白さび病の病斑の色はその名の通り、白色です。

初期は葉に退色した部分が点在し始め、それが次第に不整形で白色の病斑となります。葉柄や茎に発病すると病斑部は肥大して湾曲し、花に発病すると花弁や雌しべが肥大し奇形となります。ダイコンでは収穫時に黒い小さな円状の斑点、いわゆる「ワッカ症」を引き起こします。

この病気は、春から秋にかけての冷涼で多湿な時期に多発します。また窒素肥料の過剰施肥や水はけの悪い圃場も発生要因となります。

そのため、適切な排水管理や密植を避けることが予防策として有効です。

アブラナ科の白さび病は適用のある薬剤を散布することで防除しやすい病気なので、ダコニールなどの薬剤の予防的な散布や、発生初期のランマンフロアブル、アミスター20フロアブルの散布が有効です。白さび病は葉の裏に発生するので、発病時に薬剤散布を行う際は、葉裏まで十分に薬液がかかるように努めます。

べと病

べと病は、糸状菌(かび)の一種によって引き起こされる病気で、まず葉に黄緑色〜黄色の輪郭が不明瞭な病斑が生じます。その後、病気の進行に伴い斑点が広がり、最終的には葉全体を枯らします。

べと病は20℃という比較的冷涼で、多湿な条件、特に春季や晩秋の低温期で発生します。また過湿な圃場で発生が多く見られ、昼夜の温度差が大きい場合にも発生しやすいです。

そのため、耕種的防除策としては雨水がたまらないように圃場の排水性を高め、過湿を防ぐことがあげられます。もちろん罹病した植物残渣は圃場の外で適切に処分します。

また予防には防除薬剤の使用が重要です。発病前に適用のある薬剤(ダコニール1000、ジマンダイセン水和剤、銅水和剤など)を散布します。ただし、連用は耐性菌の発生を招くので、1作につき1回の使用を目安とします。発生が見られた場合には、べと病専用の薬剤を早めに散布します。

苗立枯病

苗立枯病はアブラナ科のほか、ウリ科、ナス科など多くの野菜に影響を及ぼす土壌伝染性の病気です。主に4種類の病原菌(フザリウム属菌、リゾクトニア属菌、ファイトフトーラ属菌、ピシウム属菌)によって発生し、アブラナ科ではリゾクトニア属菌、ピシウム属菌が主な病原菌としてあげられます。

育苗期間中に発生し、種子が発芽してまもなくリゾクトニア属菌に侵されると出芽不良となります。また発芽後の幼苗が侵されると、苗が萎れたり、地際部の胚軸が褐変して細くなったり、根が腐敗したりして、やがて枯れてしまいます。ピシウム属菌による場合には、地際部が水浸状に軟化して倒伏することが多いです。

水分土壌が多いと発生しやすく、重粘土質な土壌や酸性土壌は発病を助長します。また温度条件では、リゾクトニア属菌による発生は9〜11月の高温多湿期に多くなり、ピシウム属菌の場合は発病適温が15〜21℃とやや低く、11月〜3月の低温期で被害が多発します。

耕種的な防除対策としては、まず育苗期の過湿条件が病気の発生を招くので、水を与えすぎず、雨が多い場合には圃場の排水をよくすることなどを心がけます。

ただし、これらの病原菌はどんな畑にも土壌にも発生します。加えて、病原菌が4種類いるうえ、有効な薬剤はそれぞれ異なるので、病気になると防除が難しいといえます。発生する前か発生初期に適用のある薬剤を用いるほか、第一の対策としては以下の方法があげられます。

  • 消毒済みの種子を使う
  • 土壌消毒を行う
  • 新しい土に播種する

 

参考文献

  1. 米山伸吾他『新版 仕組みを知って上手に防除 病気・害虫の出方と農薬選び』(農文協、2022年)
  2. 夏秋啓子『植物病理学の基礎』(農山漁村文化協会、2020年)

参照サイト

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