【植物の病害あれこれ】穀類の病気まとめ①イネ編。病害の特徴や違いについて。

【植物の病害あれこれ】穀類の病気まとめ①イネ編。病害の特徴や違いについて。

本記事では、穀類の病気をまとめています。

①イネ編では、イネの主な病害についてまとめました。

イネの病気の多くは、病原体が種子表面に付着あるいは種子内部に潜伏するなどした種子を介して広がる「種子伝染性」か、土壌にいる病原体が植物の根面から侵入するなどして感染する「土壌伝染性」です。

 

 

イネの病気

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なお、イネの病気が発生する時期は、

  • 育苗期から収穫まで発生するもの
  • 育苗期に発生するもの
  • 本田で発生するもの

の大きく3つに分けられます。

イネいもち病

Pyricularia oryzaeによって起こる病気です。発生の多くは本病が感染した種子に由来します。

イネいもち病が多発しやすいのは、気温15〜25℃で弱い降雨が長くつづくような環境です。また、窒素過多の状況でイネが軟弱になり、病気への抵抗力が弱まることでも感染しやすくなるので、肥料を多施用しないよう注意が必要です。

いもち病は発生する部位によってよび方が異なり、苗いもち、葉いもち、穂いもちがあります。

いつ どこに 特徴

苗いもち

育苗期間中 苗の鞘葉
不完全葉
第1本葉の葉鞘

灰緑色の病斑
(病斑上に生じる分生子が飛散し、育苗期間中の「葉」に感染すると、育苗期間中に「葉いもち」が発生することがある)

葉いもち

本田への移植後

(移植された罹病株や罹病取り置き苗、罹病稲わらなどから分生子が飛散)

紡錘状の病斑

病状が悪化すると、株全体が萎縮し、出穂することなく枯死する

穂いもち 出穂後 穂首
穂軸
枝梗
籾など

穂首に生じた場合、はじめ穂首節に灰色の斑点が現れ、急速に拡大、褐色の病斑が形成される

イネいもち病の防除には、伝染源を断つことが重要です。根本対策には、健全な種子を種子消毒して播種することがあげられます。本田での発生を防ぐには、箱施用剤の利用が効果的です。

イネばか苗病

イネばか苗病はFusarium fujikuroiによって起こる病気です。病原体に汚染された種子に由来して発生します。

ばか苗病の典型的な症状に植物体の徒長があります。これは主に子葉鞘基部で増殖した病原菌が植物ホルモンであるジベレリンを産生し、植物がその影響を受けることによって生じる症状です。本田に持ち込まれた罹病株は徒長、黄化し、枯死してしまいます。

ばか苗病に罹病しても不稔にはなりません。そのため、収量には大きく影響しないとされていますが、本田での防除薬剤もありません。したがって、防除のためには、罹病株を見つけ次第抜き取り、健全種子を確保する必要があります。

イネ紋枯病

Thanatephorus cucumerisによって起こる病気です。罹病イネの茎や葉鞘に形成されて、収穫期に田面に落ちた菌核が伝染源です。この菌核は代かきによって浮き上がると、水ぎわに近い株元に付着し、感染します。

葉鞘内に侵入した病原体は、周辺が緑褐色〜褐色、中心が灰緑色〜灰白色の楕円形の病斑をつくります。

イネ紋枯病に効果のある薬剤は数多く普及しているので、有効成分を含む箱施用剤の利用が効果的です。

イネごま葉枯病

Cochliobolus miyabeanusによって起こる病気で、種子伝染性です。育苗期間中から発生し、出芽直後の罹病株の場合、幼苗の鞘葉が暗褐変し枯死するか、葉鞘に暗褐色の条斑や斑点が生じます。また、葉には特徴的なごま状あるいは不整形の病斑が生じます。

この病気が発生しやすい環境は、土壌が還元状態で、窒素、リン、カリ、マグネシウム、マンガンなどが溶脱しやすい不良水田です。よって、防除には土壌を改善すること、そして健全なイネを栽培することが重要といえます。

先述したいもち病にも効果のある抵抗性誘導剤(植物の病害抵抗性を高めて、防除効果を発揮する農薬)の利用も効果的です。

イネ白葉枯病

Xanthomonas oryzae pv. oryzaeという細菌によって起こる病気です。病原体がイネに感染するまでの流れは以下の通り。

  1. サヤヌカグサなど畦畔や用水路に自生する雑草で、病原体が越冬する
  2. 雑草で増殖した菌が灌漑水とともに水田に流入する
  3. 水孔や傷口から侵入する

症状は、その名の通り、葉縁部から白く枯れ上がるのが特徴です。この病気は台風などの影響で、強い風で葉がすれて傷ができたり、大雨で冠水したりすると、ほ場全体に被害が生じることがあります。

対策には抵抗性品種の導入と、いもち病にも効果のある抵抗性誘導剤(植物の病害抵抗性を高めて、防除効果を発揮する農薬)の利用が効果的です。

イネ縞葉枯病

rice stripe virus(RSV、イネ縞葉枯ウイルス)によって起こるウイルス病で、ヒメトビウンカによって媒介されます。RSVはヒメトビウンカの体内でも増殖し、ヒメトビウンカの雌が産卵した卵にも伝搬します。

イネ縞葉枯病の症状は、生育初期に感染した場合、葉は黄白色になり、こよりのように垂れ下がります。この症状から「ゆうれい病」とも呼ばれます。生育後期には、名前にもある通り、葉に黄色の、緑色部との境目が不鮮明な縞が生じます。

防除のポイントはヒメトビウンカの防除の徹底と、イネ縞葉枯病に抵抗性のある品種の導入です。

苗立枯病

Fusarium avenaceumRhizopus oryzaeTrichoderma viridePythium arrhenomanesP. graminicolaなどによって起こる病気で、いずれも土壌伝染性、育苗期に発生します。

苗が5度以下の低温や、30度以上の高温にあうと発生しやすくなります。また、苗立枯病に罹った苗は、根の生育が悪いため、マット形成の悪いくずれやすい苗となり、田植え作業に支障をきたすことがあります。

防除には、上記の病原体がいる可能性の低い山土を消毒して用いること、播種時に本病に有効な農薬を灌注処理すること、また先であげたような病気が発生しやすい温度帯で育苗しないことなどがあげられます。

褐条病

Acidovorax avanaeという細菌によって起こる病気で、種子伝染性、育苗期に発生します。

育苗工程の催芽、出芽の温度が高いと発生しやすく、症状には発芽障害のほか、葉鞘、葉身に褐色の条斑を生じることがあげられます。

種子伝染性の病気なので、健全種子を用いて種子消毒することが重要です。またビニルハウスを利用する場合には、日中のハウス内温度を高くしない管理も重要です。

苗立枯細菌病(育苗期に発生)

Burkholderia plantariiという細菌によって起こる病気で、種子伝染性、育苗期に発生します。

褐条病と同じく、催芽、出芽の温度が高いと発生しやすく、苗立枯細菌病に罹ると生育不良になって枯死し、生育が進んだ場合には新葉が退緑、黄白化してしまいます。

主な防除策は褐条病と同様です。

  • 健全種子を用いて種子消毒する
  • 日中のハウス内温度を高くしない

もみ枯細菌病菌による苗腐敗症(育苗期に発生)

Burkholderia glumae(もみ枯細菌病菌)によって起こる病気です。

症状は先述した苗立枯細菌病に似ていますが、症状がひどくなると褐変し、腐敗枯死してしまうのが特徴です。

この病気も種子伝染性で、催芽、出芽の温度が高いと発生しやすいため、先述した褐条病、苗立枯細菌病と同様の防除策が有効です。

なお、苗腐敗症の原因になるもみ枯細菌病菌は、穂に感染すると「もみ枯細菌病」を引き起こします。この病気の症状は、籾のみが淡紅色になるのが特徴です。症状が重くなると、籾の多くが不稔になってしまいます。

もみ枯細菌病の防除には、出穂前の薬剤防除のほか、いもち病の対策と合わせて抵抗性誘導剤を利用すると効果的です。

稲こうじ病

出穂後に発生するClaviceps virensによって起こる病気です。

登熟後期の籾に発生し、籾に黒緑色のかたまりが生じるのが特徴です。このかたまり(厚壁胞子)がほ場に落ちて越冬し、翌年の伝染源となります。

防除には出穂前に有効な薬剤を散布して、発生を抑えることが重要です。

墨黒穂病

出穂後に発生するTilletia barclayanaによって起こる病気です。

墨黒穂病も、先述した稲こうじ病のように籾に黒いものが付着します。黒い「かたまり」だった場合は稲こうじ病で、もみが墨のように真っ黒になっている場合は墨黒穂病です。

こちらも出穂前に有効な薬剤を散布して防除を行います。

 

参考文献

  • 夏秋啓子『農学基礎シリーズ 植物病理学の基礎』(農文協、2021年)
  • 米山伸吾他『新版 仕組みを知って上手に防除 病気・害虫の出方と農薬選び』(農文協、2022年)

参照サイト

(2024年6月19日閲覧)

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