気になる研究紹介。ブロッコリーとカラシナの前作でナス半身萎凋病の発病が抑制される!?

気になる研究紹介。ブロッコリーとカラシナの前作でナス半身萎凋病の発病が抑制される!?

近年、環境負荷を減らす農法「環境保全型農業」が推進されています。環境保全型農業はできる限り環境への負荷を減らした農業、農法を指し、その方法には肥料や農薬の使用を減らすなどが挙げられます。

農研機構の研究情報を見ていたところ、環境負荷を減らす農業につながる研究論文を見つけました。それは「ブロッコリーまたはカラシナの前作によりナス半身萎凋病の発病が抑制される」というものです。

 

 

作物の輪作による病害虫抑制効果

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まず、どのような作物においても、病虫害被害の増加を防ぐには「連作」より「輪作」の方が効果的です。

毎年、同じ土地に同じ作物を連続して栽培する連作では、圃場内の病原菌や害虫の密度が高まり、病虫害被害が増大する可能性が高まります。一方、科の異なる作物を組み合わせ、数年間隔の輪作を行うと、病害虫被害の予防につながります。

なお前作にイネ科作物を栽培すると、ネコブセンチュウ・苗立枯病・根腐病・萎凋病・つる割病・萎黄病が減少します。

ナス半身萎凋病について

ナス半身萎凋病とは糸状菌の一種であるVerticillium dahliae Klebahnによって引き起こされる病気で、発病初期には葉の半分や株の片側だけが黄色に変色して萎れ、症状が進むと、最終的には株全体が枯死します。

病気の広がり方

病気にかかった葉や茎中につくられた微小菌核※1が土壌中に残り、伝染源となります。この微小菌核は土中で3年以上生存します。菌核は定植された苗の根の表面で発芽し、植物内に侵入。導管内で分生子※2を形成し、分生子は導管を伝って地上部へと広がっていきます。

※1 菌核:菌類の菌糸が分化して,外界のきびしい条件に耐えられる硬い組織となったもの。(出典元:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)

※2 分生子:菌類において,出芽や分裂などの方法によって無性的に形成される胞子のうちで,鞭毛をもたず細胞壁が比較的薄いもの(出典元:株式会社平凡社 世界大百科事典 第2版)

病気が発生しやすい条件と一般的な防除対策

地温が22〜26℃のときに発生しやすいと言われており、土壌湿度が湿潤状態だと発病しやすくなります。また根が痛むとさらに発病しやすくなるとされています。一方で18℃以下の低温、30℃以上の高温では発病しにくいです。

先でも紹介したように、土壌中に残った菌核が伝染源となる土壌伝染性の病害のため、前作で病気が発生した場合には、太陽熱処理や土壌くん蒸剤等で圃場の土壌消毒を行う必要があります。

根が傷まないよう、また土壌が過湿にならないよう、適切な圃場管理を行うことも大切です。発病した株は見つけ次第、ほ場外に持ち出して処分を行います。

 

 

ブロッコリーとカラシナの前作による効果とは

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ブロッコリーの場合

ブロッコリーとの輪作によるナス半身萎凋病の抑制」によると、アメリカ・カリフォルニア州では、ブロッコリーとの輪作が、カリフラワー半身萎凋病の発病抑制に効果があるということが報告されています。そこで農研機構はこの技術を応用し、ブロッコリーを前作することでナス半身萎凋病の防除にどのような効果が得られるか検討を行いました。

方法は単純で、前作としてブロッコリーの作付けを行い、栽培・収穫後、残さをすき込み、その後、後作としてナスを栽培します。

実験では群馬県内の5箇所の圃場で計6回の試験を実施。そのうち4回は、微小菌核および土壌フスマ培地で培養した病原菌を土壌に接種して作成された汚染圃場で、そのほかの2回はナス生産者の自然発生圃場です。無処理区にはブロッコリーを作付けしない区とナスを連作した区が設けられました。

その結果、

  1. 微小菌核を接種した試験
  2. 土壌フスマ培地で培養した病原菌を接種した試験
  3. 自然発生圃場で行われた試験

のうち、1の条件の事例が2つ、2の条件の事例が1つ、3の条件の事例が2つ、計5つの事例で、無処理区と比較したときに発病株の割合の低下が確認されました。このことはブロッコリー輪作によって、なにも対処しない場合と比較してナス半身萎凋病が抑制されることを意味しています

研究論文を読んでいて興味深かったのが、全6回の試験すべてで、ブロッコリーがナス半身萎凋病の病原菌に感染していたことです。すべての試験でブロッコリーの維管束が褐変しており、発病が確認されています。ただし、この褐変は花蕾部には到達せず、収穫物への影響はないとありました。

先で説明したように、ナス半身萎凋病菌は菌核が苗の根表面で発芽し、植物内に侵入すると、分生子を形成し、道管を伝って地上部へと広がっていきます。

過去の研究から、アブラナ科植物が半身萎凋病菌に感染すると全微小菌核のおよそ81%が地上部で形成されるとあります。病気にかかった葉、茎、根を土壌に混ぜたところ、葉を混ぜた区画は著しく発病すると報告されており、地上部で病気になった部位が次作の発病につながる微小菌核の供給源ではないかと推察されています。

しかしブロッコリーに感染した病原菌は花蕾部に到達できず、地上部に広がることもできません。それにより、微小菌核の形成が著しく抑えられたと考えられています。

よって、ブロッコリーへの感染により微小菌核の形成が著しく抑えられたこと、次作に残存する微小菌核が減少したことが、ナス半身萎凋病菌の発病の抑制につながったと考えられています。

カラシナの場合

カラシナは、植物体を土壌へすき込むことでさまざまな土壌病害を抑制するとされています。たとえばカラシナから生じるアリルイソチオシアネートはホウレンソウ萎凋病菌の生育を著しく抑制します。アリルイソチオシアネートはワサビやカラシに含まれる天然の辛味成分であり、高い抗菌作用があります。カラシナの葉を土壌中に混入すれば、ホウレンソウ萎凋病菌の密度が減少し、発病が抑制されます。

カラシナの前作とすき込みによるナス半身萎凋病の発病抑制」では、ナス栽培への適用が検討されました。

実験ではカラシナの栽培、すき込みによるナス半身萎凋病の発病抑制効果の検討が行われました。まずワグネルポット(実験用の植木鉢)上で、

  1. 病原菌を接種・カラシナをすき込んだ区
  2. 病原菌を接種・無処理区
  3. 無接種・無処理区

で比較した際、2009年の結果では1の区では発病しませんでした。2011年の結果は有意差は認められなかったものの、2の区では16株中11株が発病したのに対し、1の区では16株中5株にとどまり、無処理区と比較して発病した株が少ないことがわかります(なお、3の区は2009年、2011年いずれも発病していません)。

次に行われた圃場試験でも、発病株率にも違いが生じています。初年度にナスの連作を行った区域ではナスの発病株率は60%で、ナス半身萎凋病菌を圃場に接種したことによる発病が確認されました。2年目に

  1. 連作区
  2. 休作区
  3. カラシナを前作、すき込んだ区

でナスを栽培したところ、1.と2.の発病株率は87%と73%となりましたが、3.は47%と低く抑えられています。

カラシナの場合も、発病の抑制は微小菌核の減少に起因している可能性が考えられます。ブロッコリーの場合との違いは、カラシナを土壌にすき込むことで生じる土壌中の変化が要因として挙げられます。

過去の研究より、カラシナ、ブロッコリー、カリフラワーなどリグニンを含むアブラナ科の植物体を土壌にすき込むと、半身萎凋病菌の微小菌核が減少することが知られています。これは土壌中に添加されたリグニンを分解するために、糸状菌が分泌するリグニナーゼという酵素が、糸状菌由来のメラニンを分解する活性をもつためです。メラニンは半身萎凋病菌の微小菌核の主成分です。リグニナーゼによってメラニンが分解されることで、微小菌核の生物的・非生物的ストレスに対する耐久性が低下し、菌密度が減少すると考えられています。

 

 

ブロッコリーとカラシナの前作を取り入れる際の注意点

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研究論文にも記されていますが、ナス半身萎凋病の多発圃場では効果が劣るとされています。発病拡大を未然に防ぐための予防手段として、発病株率がおよそ30%までの圃場で活用するようにしましょう。

本記事でご紹介した研究の筆頭著者である群馬県農業技術センターの池田健太郎氏は、農山漁村文化協会編『最新農業技術土壌施肥』にも度々寄稿しています。農山漁村文化協会編『最新農業技術土壌施肥vol.12』(農山漁村文化協会、2020年)では「農薬に頼らない土壌病害対策」でナス半身萎凋病について執筆しています。気になる方はぜひ『最新農業技術土壌施肥』をチェックしてみてください。

 

参考文献

  1. 農薬に頼らない防除法<野菜 – JA兵庫六甲
  2. 前作としてブロッコリーを作付けすることによるナス半身萎凋病の発病抑制
  3. ブロッコリーとの輪作によるナス半身萎凋病の抑制
  4. 病虫害図鑑 ナス半身萎凋病 – あいち病害虫情報 – 愛知県
  5. Evaluation of Broccoli Residue Incorporation into Field Soil for Verticillium Wilt Control in Cauliflower
  6. カラシナの前作とすき込みによるナス半身萎凋病の発病抑制
  7. カラシナから生じる揮発性抗菌物質によるホウレンソウ萎凋病の発病抑制|農研機構
  8. 池田 健太郎 (Kentaro IKEDA) – マイポータル – researchmap

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