【植物の病害あれこれ】炭疽病について

【植物の病害あれこれ】炭疽病について

「炭疽病」とは、主に糸状菌のColletotrichum属菌によって引き起こされる病害です。果樹、野菜、花き、樹木類など幅広い植物に発生します。日本では、都道府県の病害虫防除所が発表する発生予察情報において、炭疽病に関する注意報がイチゴやカキといった果樹類、キュウリといった野菜において多く発表されています。

 

 

炭疽病の特徴

【植物の病害あれこれ】炭疽病について|画像1

 

島根県のウェブサイトでは、イチジクの炭疽病とそうか病の比較画像が公開されています。

炭疽病は葉、茎、果実に発生します。特徴的な病徴(病気に罹った植物において、肉眼で確認できる異常)には、葉の場合は円形の病斑、茎、果実ではへこんだ斑点が生じます。

葉に生じる病斑は健全な部分との境がはっきりしていることが多いです。周縁部は暗褐色か黒褐色で、病気に罹った部位は作物の種類によって白色だったり、暗褐色だったり、赤褐色だったり、黄褐色だったり特徴的な色を示します。葉が肉厚な場合には、茎や果実で見られる病徴のように病斑部が少しくぼむことがあります。雨が連続して降るなどして多湿状態が続くと、病斑が拡大し、不定形に広がっていきます。不定形に広がると、健全な部分との境目は曖昧になります。また、病斑は古くなると、その中央部が白くなり、穴があくことが多いです。

茎や果実に生じる病斑は楕円形、または不定形で、病斑部がくぼんでいる場合が多く見られます。また病斑部に小黒点が多数でき、湿度が高くなるとサーモンピンク色で粘質の胞子ができます。

病原菌の特徴、発生しやすい条件

炭疽病の伝染源となるのは、被害を受けた作物の残渣や感染した株、汚染された種子、雑草などが挙げられます。

病原菌である糸状菌のColletotrichum属菌は20〜30℃で生育し、25〜27℃が最適温度です。これらの菌は被害を受けた茎葉の中や支柱などの資材に付着して冬を越します。被害を受けた作物残渣や資材、雑草に付着した病原菌は第一次伝染源となり、ここで形成された胞子は雨や潅水による水の飛沫とともに飛散して伝染します。

そのため、炭疽病は梅雨や秋雨といった長雨の発生する時期に発生が多く見られます。台風など強風を伴う降雨は発病を拡大させるので注意が必要です。

高温時、雨の多い時期に発生しやすい炭疽病ですが、露地栽培では発病が多く見られる一方、ハウス栽培での発生は比較的少ないとされています。

冒頭で紹介したイチゴやカキといった果樹類のほか、キュウリやスイカ、メロンといった多くのウリ類、またハクサイやダイコンなどアブラナ科植物に特異的に寄生するColletotrichum属菌もいます(たとえばコマツナ炭疽病の原因菌は、糸状菌のColletotrichum higginsianum<コレトトリカム ヒギンシアナム>)。

 

 

炭疽病の予防・対策

【植物の病害あれこれ】炭疽病について|画像2

 

耕種的防除の観点からは、先述した伝染源と取り除くことが重要です。被害を受けた作物の残渣や感染した株は速やかに取り除いてください。

なお、参照サイトに記載した「植物防疫第73巻4月号」のPDF資料『炭疽病菌による病害の発生生態と防除』によると、炭疽病に罹ったマンゴーの枯死した葉の上に形成した分生子※塊は、25℃で150日、10℃で300日生存した、とあります。加えて、病原菌の分生子は土壌中では数日しか生存できないものの、土壌中に埋設したイチゴのクラウン内では5ヶ月間も生存できる、とあります。

すなわち、被害を受けた作物の残渣は圃場外へ持ち出し、適切に処分する必要があります。上記記事には、「汚染残渣を土壌中に埋設処理する場合には、残渣を腐熟させることが必要である」とあります。

高温、多雨の季節は炭疽病が発生しやすくなるだけでなく蔓延しやすい時期でもあるので、作物によっては施設栽培や雨よけ栽培に努め、病原菌が水の飛沫とともに飛散して伝染するのを防ぎます。

それから、病原菌に汚染された種子は使用せず、健全な無病種子を播種し栽培することも大事な予防策といえます。

そしてもちろん、薬剤による防除法もあります。ただし、発病後の薬剤防除は困難を極めます。作物の状態をよく観察し、発病の初期段階を捉えて早期防除に努めることが重要です。ベノミル水和剤マンデストロビン水和剤が使用できます。農薬の使用にあたっては必ずラベルを確認し、安全使用基準を厳守して、正しく散布を行ってください。

なお、薬剤が付着しにくい作物(ネギ、ニラなど)に薬剤を散布する際は展着剤を使用し、葉に薬剤が十分に付着するようにしてください。

薬剤防除法の注意点としては、薬剤耐性菌の発生が確認されていることがあげられます。基本的には耕種的防除策を行い、薬剤防除の使用回数をできるだけ制限する、ローテーション散布を実施することが有効です。

そのほか、雑草も伝染源となるので圃場周辺の雑草防除に努める、炭疽病発生を助長することのないよう、株や枝が軟弱化する要因となる窒素過多な多肥栽培を避けることなども重要です。

 

参照サイト

(2024年8月25日閲覧)

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