「伝染性病害」まとめについてはこちら。
非伝染性病害とは
伝染性病害が、主に病原となる微生物の寄生によって引き起こされるのに対し、非伝染性のものは、農作物の生育に関連する環境条件によって引き起こされる「生理障害」を指します。生理障害を引き起こす代表的な環境条件には、
- 養分の欠乏
- 農薬による薬害
- 土壌中の有害蓄積物など
が挙げられます。
“養分の欠乏”と書きましたが、農作物が必要とする要素が足りなくなることで起こる欠損障害のみならず、その農作物が必要としない要素が蓄積することで起こる過剰障害もあります。
非伝染性病害としてよく挙げられるもの
窒素欠乏・過剰
窒素は肥料の3要素(窒素・リン酸・カリウム)の一つであり、農作物の生長に欠かせません。しかし窒素は多すぎても少なすぎても農作物の生育を阻害します。
窒素が少なすぎたときの分かりやすい症例は葉の色の変化です。葉の色が全体的に淡緑化し、その後、葉先から黄色に、症状が悪化すると壊死斑に変化します。また葉や茎などの生長が抑制され、生育が衰えていきます。
窒素が多すぎた場合は、徒長につながります。また窒素過剰の農作物は、代表的な害虫であるアブラムシを引き寄せやすくなります。
リン酸欠乏・過剰
欠乏症が大半です。
リン酸が少なすぎると、
- 花の数が減る
- 開花や結実が悪くなる
- 成熟が遅れる
- 果実の甘みが少なくなる
などの症状が現れます。
リン酸過剰になることはあまりないとされていますが、リン酸が極端に多すぎる環境では、草丈が伸びないなどの生育不良の症状が出るうえ、他の養分(鉄やマグネシウムなど)の欠乏症状を引き起こします。
カリウム欠乏・過剰
欠乏症が大半です。
カリウムが少なすぎると、
- 葉が枯れる
- 新芽の生長が衰える
- 根が伸びにくくなり、根腐れが起きやすくなる
- 果実が大きくならない
などが挙げられます。
カリウム欠乏症は古い葉から症状があらわれます。葉の先端から縁にかけて黄色くなっていき、縁が枯れていくのが特徴です。
リン酸同様、過剰症は出にくいのですが、カリウムが極端に多すぎるとカルシウムやマグネシウムなどの吸収が悪くなります。
マンガン欠乏・過剰
少なすぎても多すぎても生理障害が出やすい要素です。
マンガンが欠乏すると、新しい葉から淡緑化→黄化→枯死斑点が生じるといった症状が表れます。
マンガンが過剰の場合、
- 下位葉から植物全体にかけて斑点が発生する
- 「クロロシス」になる
の症状が挙げられます。「白化」とも呼ばれる「クロロシス」は植物の葉の中に含まれるクロロフィル濃度が不足した状態で、葉の色は抜け、徐々に白色へと変化します。クロロフィルは光合成に重要な物質で、クロロシスになったということは、光合成の力が弱まり、それに伴い、生育に必要な糖の合成を行う能力が弱まっていることをあらわします。
鉄欠乏・過剰
鉄の欠乏もまた「クロロシス」を引き起こします。鉄そのものはクロロフィルに含まれていないものの、クロロフィルが生成される前の物質の合成には鉄が必要です。そのため、鉄が欠乏すると、クロロフィルの合成にも影響が及び、クロロシスが起きてしまうのです。
鉄の欠乏は土壌のアルカリ化が原因といわれています。またマンガンなどが過剰に存在することでも鉄欠乏の症状が現れることがあります。
なお鉄が多すぎる場合には根の発育不良が起こり、リン酸やマンガンなど、他の要素の吸収が阻害されてしまいます。
カルシウム欠乏・過剰
カルシウムが少なすぎると新芽や根の生育に悪影響を及ぼします。その結果、
- 尻腐れ病(トマトやピーマンなど)
- 芯腐れ症(白菜やチンゲンサイなど)
- 葉焼け症など
の代表的な症状が発生します。
カルシウム欠乏は、単に土壌中のカルシウムが不足しているというよりも、大半が
- 土壌の酸性化
- 肥料バランスの崩れ
- 乾燥による水分不足
- 高温等による蒸散不良
- 水はけの悪い土壌等、土壌が加湿状態になることで生じる根腐れなど
が原因で、根からのカルシウムが吸収されにくくなることで起こります。
一方、カルシウム過剰は欠乏に比較すると起きにくいものですが、カルシウムが多すぎると土壌は強アルカリになり、pHが高くなるとマンガンや鉄などの吸収が阻害されるため、他の養分欠乏症が起こりやすくなります。
参考文献
- 有江力監修『図解でよくわかる 病害虫のきほん 病害虫発生のメカニズムから、栽培管理、農薬・肥料の使い方、防除法まで』
- 5.5 植物の病気
- 第1章 植物と病気(1)|Dr.岩田の植物防御機構講座|オリゼゲート
- スイートコーン窒素欠乏
- リン酸(P)|住友化学園芸
- カリ(K)|住友化学園芸
- マンガン欠乏
- クロロシス – ルーラル電子図書館ー農業技術事典 NAROPEDIA
- 季刊誌12号_069_072生理障害4段k2.indd
- 鉄(Fe)|住友化学園芸
- カルシウムの働き|欠乏症や過剰症にならないために
- 季刊誌18号_058_062生理障害.indd