昨今、熱帯果樹などの栽培面積が大きく伸びています。2024年1月に公開された日本農業新聞の記事によると、2020年時点ではアボカドは5年前の7倍、バナナも同6割増、ライチは同4割増となっています。
地球温暖化に伴う気候変動の影響で、日本の年平均気温は、世界のものと同様、変動を繰り 返しながら上昇しています。環境省によれば、長期的に見ると100年あたり1.19℃の割 合で上昇しているとのことです。
これまでとは異なる気候により、ブドウやリンゴといった果樹では生育不良や着色不良が起こるなど、さまざまな問題が指摘される一方、これまで日本における栽培がこんなんだった熱帯・亜熱帯果樹の生育がしやすくなったともいえます。
熱帯果樹を取り巻く状況
まず日本における果実の消費量・生産量は減少傾向にあります。
江戸時代以前からさまざまな果実が国内で生産されていたものの、そのほとんどは献上品であり、庶民が日常的に食べるものではありませんでした。明治時代以降も、果実は嗜好品として扱われてきました。
高度経済成長期に入り、生活が豊かになる中で果実の消費量は1960年から1975年までの間で約2倍に増加。また1963年にはバナナの輸入が自由化されたことで、これまで高級品だったバナナが身近な果物の一つになりました。
とはいえ、農林水産省が公開する食料自給表を見てみると、果実の品目別自給率、国内生産量は減少傾向にあります。
そんな中、果実の輸入量は、変動はあるものの、近年は生鮮果実が180万トン〜170万トンで推移しており、中でも熱帯果樹の代表格ともいえるバナナを始め、パイナップル、キウイフルーツ、オレンジ、アボカド及びレモンの6品目が約9割を閉めています。
そんな折、温暖化に伴い、熱帯果樹を日本国内でも栽培できないかという動きが出てきました。国際農林水産業研究センターが公開する資料「熱帯果樹の栽培・普及に関する展望」によれば、熱帯果樹の収穫時期は日本の気候区分である温帯で育つ果樹の種類が少ない6〜9月にあたります。果実量が少ない時期に、熱帯果樹の生産を増やすことができれば、市場にとっても有意義になると考えられます。
熱帯果樹の特徴
代表的な熱帯果樹にはバナナ、パイナップル、パパイア、パッションフルーツなどがあげられます。
品種によっては多少強いものもありますが、熱帯果樹は耐寒性が弱く、その多くは10℃以下で生育が止まり、5℃以下では生育阻害が生じ、0℃以下になると枯死することがあります。
一方、熱帯・亜熱帯に生育していることから高温耐性があるように思えるかもしれませんが、高温に強いわけでもありません。38℃を超える高温下では葉焼けしたり生長が止まったり、そこに乾燥した状態が加われば枯死することがあります。
熱帯果樹の繁殖は基本的には栄養繁殖※1で、多くは接ぎ木、そのほか挿木や取り木などの方法がとられます。使用される台木※2は種子繁殖※3されることが多いです。
※1 タネでの繁殖に対して、挿し木、接ぎ木、取り木、株分け、組織培養などで繁殖する方法をいう。(引用:え | 農業・園芸用語集 | タキイ種苗株式会社)
※2 植物を接ぎ木する場合、根部に当たるものを台木という。(中略)なお、果樹などは病害防止の目的ではなく、品種の形質を正しく保持する苗木をつくる目的で、それぞれ必要な台木に接ぎ木する。(引用:た| 農業・園芸用語集 | タキイ種苗株式会社)
※3 野菜や草花の多くは、タネによって殖やす。このようにタネによって殖やすことを種子繁殖という。(引用:し | 農業・園芸用語集 | タキイ種苗株式会社)
熱帯果樹マンゴスチンが面白い
マンゴスチンは「果物の女王」とも呼ばれる独特な香りと味わいが特徴的な果物です。このマンゴスチンは受精を伴わない無性生殖で種子が形成されます。雌だけで種子を形成することができるため、種子で繁殖されて栽培されているものはすべてクローンだとされています。
なお、日本へのマンゴスチンの生果実の輸入はかつて禁止されていました。その理由は主な栽培地域に輸入禁止対象害虫であるミカンコミバエが分布していることがあげられます。熱帯果樹の中には、このような植物検疫の事情で輸入が厳しく制限されているものもあります。
しかし、マンゴスチン生果実の輸入は少しずつ前進しています。2003年、輸入禁止対象害虫を完全に殺虫できる技術(蒸熱消毒)が確立され、日本側の検査官による消毒確認等が必要になるなど厳しい輸出条件はあるものの、タイ産マンゴスチン生果実が輸入できるようになりました。
またタイはコスト削減と果実の鮮度保持を目的に、上記の殺虫処理(蒸熱消毒)を省いた輸出法を提案し、タイと日本が競技を重ねた結果、指定農地で生産されるなど条件を満たしたものに限り、2023年8月から蒸熱消毒なしの生果実が輸入されるようになりました。
日本国内では、石垣島で栽培されている熱帯果樹の一つとしてあげられます。ただ、生育が遅いうえ、温度や湿度など生育環境が限られるなどの条件、また日本での知名度が低いことを考えると、費用対効果が低いといえます。
熱帯果樹栽培時の注意点
熱帯果樹の国内生産にはもちろん課題もあります。
先述した通り、熱帯果樹の中には比較的耐寒性の強い品種もあれば、露地栽培が可能な種もあります。周年で高い温度を維持しなければならないというわけでもありません。そのような背景から、近年沖縄県など亜熱帯地域以外、西南地方の暖かい地域などでの栽培が増加しています。施設栽培においては、少なくとも最低温度5℃を保持することができれば、果樹体を維持することはできるとされています。
しかし突発的な低温にみまわれた場合、永年作物である果樹は回復するまでに数年を要するため、現時点では安定的な生産が期待できないのが現状です。
またマンゴスチンのように生育が遅いものもあるので、仮に日本国内では珍しい果樹を栽培したとしても、生育が遅いうえ、認知度が低く、需要量も少なかったりすると、費用対効果は非常に低いものとなります。
ちなみに、マンゴスチンは初めて結実するまでに8年以上かかるといわれています!
参考文献:荻原勲『図説 園芸学』(朝倉書店、2006年)
参照サイト
(2024年3月11日閲覧)
- 果実の輸出状況 ①(主要6品目)
- その9:果実の自給率:農林水産省
- 石垣島で栽培している熱帯果樹(一部)
- バナナの足 研究会 – バナナという作物
- 22658009 研究成果報告書 – KAKEN
- タイ産マンゴスチンの輸入
- タイ産マンゴスチン、新措置で日本輸出 – NNA ASIA・タイ・農水
- マンゴスチンの解説 | 旬の果物通販ならグローバルフルーツ
(2024年3月19日閲覧)