堆肥は土壌改良のために用いられる農業資材で、家畜の糞や落ち葉などの有機物を微生物によって分解・発酵したものです。堆肥を土に混ぜ込むと、土がフカフカになります。
しかしなぜ土がフカフカになるのでしょうか。
なぜフカフカになると、土壌改良に効果的なのでしょうか。
本記事では「今更聞けない堆肥について」と題し、堆肥の役割と種類や性質についてご紹介していきます。
堆肥の役割
土の役割を知る
堆肥の役割を知る前に、植物が育つのに重要な「土」の役割について説明させてください。植物は土に根を張り、水分や養分を吸収します。しかし土の状態が悪いと、根から十分な水分、養分を吸収することができません。
- 保水性と排水性に優れている
- 通気性に優れている
- 適度な圧力があり、植物を支えることができる
- 土壌微生物が豊富である
- 有機物が豊富である
- 保肥性がある
などが良い土の条件です。
しかし農場の土が、これら全ての条件に当てはまっていることはそうありません。
そこで堆肥の登場です!
土の物理性を改善する
良い土の条件として挙げた
- 保水性に優れている
- 排水性に優れている
- 通気性に優れている
などを叶えるために、堆肥は役立ちます。
これらの条件に当てはまる土は「団粒構造」と呼ばれる構造をしています。団粒構造とは、土壌の粒子が小さなかたまりになっている構造を指します。この構造の土は先で挙げた良い土の条件に当てはまります。
堆肥は家畜の糞や落ち葉などを微生物が分解・発酵したものです。条件に当てはまっていない土に堆肥を混ぜ込むことで、堆肥の中の分解・発酵された物質や微生物が分泌する物質が”のり”のような役割を果たして、土の粒子をかたまり状にしてくれます。
土の生物性を改善する
土壌微生物や有機物の豊富さも良い土の条件のひとつです。堆肥はその条件も叶えてくれます。堆肥の中には多種多様な微生物が存在します。もちろんどのような条件の土壌であっても多種多様な微生物が存在しているはずですが、堆肥を土に混ぜ込むことで様々な微生物が多様に繁殖することになります。
農作物の病害被害は、その病害の元となる微生物が異常繁殖することで起こります。しかし多種多様な微生物が土壌中に存在すれば、それらの微生物と病原菌が生存競争をすることで、ある特定の微生物だけが異常繁殖するという状況を回避できます。
土の化学性を改善する
肥料分を保持できることも良い土の条件です。農作物の生育を促進するために与えた肥料が土に留まることなく流れてしまっては意味がないですよね。土の保肥力には「CEC(カチオン:エクスチェンジ:キャパシティーの頭文字)」という指標があります。
- カチオン:陽イオン
- エクスチェンジ:交換
- キャパシティー:容量
という意味があり、肥料分をどれだけ保持し続けられるかの指標です。
堆肥はこのCECが高いため、肥料分をしっかり保持してくれます。そして植物の根が養分を吸収するまで保ち続けてくれるのです。
堆肥の種類と性質
家畜ふん堆肥
家畜の糞を利用した堆肥です。よく活用される堆肥と言えますが、発酵が進んだ完熟した堆肥でないと、家畜の糞の匂いがきつかったり、植物に害を与える病原菌が残っていたりするので、選ぶときには
- 湿り気が少なく、サラサラしている
- 匂いが少ない
ものを選びましょう。
家畜ふん堆肥は一般的に
- 牛
- 鶏
- 馬
の糞が活用されています。
牛は草食性の動物ですから、繊維質の多い糞を出します。その糞にわらやおがくずなどを混ぜます。農作物の成長に役立つ栄養素は少なめですが、土壌改良効果は高く、匂いも少なめです。効き目は穏やかなので、これを使って土づくりをする際には、時間をかけてゆっくり土壌改良を行いましょう。
鶏ふんは、植物の生長に欠かせない窒素、リン酸、カリウム以外に石灰やカルシウムなどの栄養素を多く含んでいます。肥料効果が高いのですが、土をフカフカにする効果は少ないので、肥料として使用されることが多いです。ただし散布量や散布タイミングを誤ると、かえって植物にダメージを与えてしまうこともあるので、使用する際には注意が必要です。
馬ふんも牛ふん同様、草食動物ですから繊維が豊富で、土壌改良にはもってこいの堆肥です。
稲わら堆肥
土壌改良効果が高い特徴があります。
- 短く切った稲わら
- 米ぬか
- 鶏ふん
などを混ぜてつくる堆肥です。稲に含まれるケイ酸には、野菜が病害虫に強くなる効果があるとされています。
もみがら堆肥
- もみがら
- 米ぬか
- 鶏ふん
などを加えてつくる堆肥です。こちらも土壌改良剤として効果を発揮します。
木質堆肥
- 粉砕した樹皮
- 米ぬか
などを加え、長期間発酵・熟成によりつくる堆肥です。先で紹介した植物性の堆肥もそうですが、肥料効果はあまりなく、もっぱら土壌改良剤として使用されます。通気性や保水性のいいフカフカの土にするのであれば、候補に入れておくといいでしょう。
堆肥を使う際の注意点
使いすぎない
鶏ふん堆肥など肥料効果の高い堆肥の場合には使いすぎないように注意してください。土壌中の栄養分に偏りが生じると、農作物の生長に悪影響を及ぼす可能性が高まります。土壌の状態と、混ぜ込む堆肥の窒素量などを十分考慮してから、少しずつ施すのがポイントです。鶏ふん堆肥とは違い、肥料分の少ない植物性の堆肥であっても少量ずつ施すことをお勧めします。
完熟していない堆肥はNG
家畜ふん堆肥でも触れましたが、発酵が未熟な堆肥を使用するのはNGです。堆肥は発酵段階で熱を生じます。その温度はなんと65℃前後。しかしその温度によって農作物に害を与える可能性のある病原菌の繁殖を抑えることができるのです。完熟すれば、有用な微生物だけが生育している状態になります。完熟するまで3ヶ月〜半年以上有することもありますが、先で紹介した通り、完熟の目安は
- 湿り気が少なく、サラサラしている
- 匂いが少ない
状態だということを覚えておきましょう。
参考文献