近年、猛暑や集中豪雨など、激しい気候変動が続いています。施設園芸や植物工場など、気象条件に左右されない農業のあり方も増えつつありますが、激しい気候変動が農作物に悪影響を及ぼすこともしばしばあります。
気候変動から農作物を守るために、農業用資材を活用したり、空調設備を整えたりするのも手ですが、気候変動に適応できる品種を選ぶのもひとつの手です。
気候変動による農業への悪影響
水稲の場合
近年の激しい気候変動は、地球温暖化の影響とも言われています。地球温暖化は、米の品質に悪影響を及ぼします。
生育期間中に温度の高い時期が増えることにより生じるのが「白未熟粒」です。通常、精米した米はうっすらと透き通って見えますが、白未熟粒は白濁しています。食味も悪くなるため、白未熟粒が通常の米粒の中に混じってしまうと、米の格付けを下げてしまうことになります。
農作物の場合
高温期が続くことで考えられる農作物への影響には
- 生育不良
- 着色不良
- 着果不良
- 日焼け
- 開花が早まる
などが挙げられます。
また収穫時期にも悪影響を及ぼします。葉菜類、根菜類などの冬春季収穫野菜の場合、高温の影響で生育期間が短くなり、収穫時期が早まります。一方で、レタスや白菜など夏季収穫野菜の場合には、高温の影響で収穫が遅れることがあります。収穫期が思わぬ形で早まったり遅れたりすることは、野菜の価格乱高下につながります。
果樹の場合
気温が高いときに影響を受けやすいのが果樹です。気温が高い日が続くと、着色不良や生育不良が起きてしまいます。例えばリンゴの場合、気温が25℃を超えてしまうと着色が進みません。リンゴは寒暖差の大きい、冷涼な地を好みます。しかし夏場になると、日本各地で30℃を超える「真夏日」が報告される昨今、着色不良への影響が懸念されます。また気温が高いと、果実が日焼けを起こすこともあります。色づきや食味への影響は、品質を下げてしまうため、深刻な問題です。
環境に対応できる品種に注目!
高温に対応した品種
昨今、高温に対応した品種が次々に発表されています。主に「水稲」には、白未熟粒になりにくい、高温に耐えられる品種がたくさんあります。
例えば「にこまる」(農研機構 九州沖縄農業研究センターが2005年に育成)は、高温条件下でも安定した収量と品質を得ることができます。食味にも定評があります。ただし、いもち病にはあまり強くないという難点もあります。
「つや姫」(山形県が2009年に育成)は高温耐性に優れているだけでなく、耐倒伏性にも優れています。いもち病に対する抵抗性もあるため、水稲のあらゆる課題に対応できる品種と言えるのではないでしょうか。食味にも定評があります(穀物検定協会の食味ランキングで、山形と宮城県産が「特A」評価)。
高温の影響を受けやすい「果樹」にも、高温耐性品種があります。
リンゴの着色不良に対応できる品種に「「秋映」、「夢つがる」、「つがる姫」、「こま
ちふじ」、「長ふ12VF」等が挙げられます。また群馬県と農研機構果樹研究所が育成した「おぜの紅」も、高温で着色しやすい品種です。「おぜの紅」は2009年に品種登録されています。
農研機構の資料によると、かんきつ類においては高温耐性品種の育成が行われていないようです。ただ、高温期に発生しやすい浮皮(果皮と果実が分離した状態のこと。この状態になると果実が腐りやすくなったり、食味が落ちたりする)に関しては、「せとか」「津之輝」などの品種が「浮皮の発生が少ない」と報告されています。
豪雨に対応した品種
集中豪雨の人的被害も相当なものですが、農業においても集中豪雨は大打撃となります。そんな中、「豪雨に強いレタス」を見つけました。「ブルラッシュ」と呼ばれるレタスは、立ち上がった外葉が日よけとなり、豪雨後の日射による日焼けやしおれが起きにくいと言われています。
また比較的耐湿性が強い野菜を育てるのも良いでしょう。
<夏野菜>
- サツマイモ
- サトイモ
- ヘチマなど
<秋野菜>
- ミツバ
- ゴボウ
- イチゴなど
台風に対応した品種
台風などによる強風に強いスイートコーンの品種をご紹介します。「ゴールドラッシュ90」と呼ばれる品種の根はタコ足状になっており、土をつかむようにして根を張ります。そのため、強風にあっても倒れにくいのが特徴です。耐暑性にも優れているので、厳しい暑さと大型台風が次々に襲いかかる昨今の夏場に対抗できる品種と言えるでしょう。なお食味も良好です。「ゴールドラッシュ90」を育成した株式会社サカタのタネの研究センターによると、糖度は15~19度とのこと。
気候変動への柔軟な対応を
地球温暖化に伴う気候変動を急激に解消することはできません。そのため、避けられない気候変動に対して柔軟に対応を行う必要があります。農林水産省は「気候変動適応計画」を決定し、対策などをまとめています。
「気候変動適応計画」にもありますが、高温耐性品種や集中豪雨、台風に対応できる品種の開発が推進されています。気候変動による被害が怖いのは、生育不良などの被害に遭った後の病害虫被害の拡大です。弱っている作物が病害虫による被害を受ければ、壊滅的な状況に陥ることでしょう。気候変動による被害を受けたことがある場合には、気候変動に対応できる品種の活用も頭に入れてみてください。
また、本記事ではご紹介しませんでしたが、「温暖化が進むことで、育てられる作物も変化する」という考えも、気候変動に対応するひとつの手です。例えば、みかんの産地である愛媛県では、高温に強いブラッドオレンジ「タロッコ」の栽培を始めています。熱帯、亜熱帯原産のアボカドを育てている地域もあります。
参考文献