【植物の病害あれこれ】穀類の病気まとめ②ムギ・ダイズ編。病害の特徴や違いについて。

【植物の病害あれこれ】穀類の病気まとめ②ムギ・ダイズ編。病害の特徴や違いについて。

本記事では、穀類の病気をまとめています。

②ムギ・ダイズ編は、ムギ・ダイズの主な病害についてまとめたものです。

ムギ・ダイズの病気の多くは「種子伝染性」(病原体が種子表面に付着あるいは種子内部に潜伏するなどした種子を介して広がるもの)か「土壌伝染性」(土壌にいる病原体が植物の根面から侵入するなどして感染するもの)です。

 

 

ムギの病気

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主要なムギ類にはコムギとオオムギがあります。ムギ類の主な病気には、この両方に共通したものといずれかにのみ感染するものがあります。

赤かび病

Fusarium属菌によって発生する病気です。

主に穂に発生して、頴(えい・イネ科植物の花・小穂の外側にある葉状の2枚の小片)の合わせ目に鮭肉色のかたまりができます。感染すると稔実が悪くなってしまうため、減収につながります。

また赤かび病は、人畜に有害なカビ毒(マイコトキシン)が生成されます。そのため農産物検査では、赤かび粒が混入していないことが求められます(混入率0.049%以下)。

赤かび病の防除対策としては、抵抗性の高い品種の選択や薬剤による防除が重要です。最も感染しやすい開花時期の感染を抑えることが何より大切です。

さび病

Puccinia属菌によって発生する病気です。さび病には以下のような種類があります。

  • Puccinia reconditaによる赤さび病(コムギ)
  • P. hordeiによる小さび病(オオムギ)
  • P. triiformiによる黄さび病
  • P. graminisによる黒さび病

いずれの症状も、葉や茎に、鉄がさびたような色の斑点ができます。この斑点(夏胞子)の大きさや色などで、病原菌を区別することができます。また、黄さび病菌と黒さび病菌はコムギとオオムギに感染しますが、小さび病菌はコムギには感染せず、赤さび病菌はオオムギには感染しません。

さび病の防除では、殺菌剤の使用が重要な方法の1つです。ただし、「ダイズさび病菌」に殺菌剤に耐性を持った菌が出現した例も報告されているため、殺菌剤で防除を行う際は、耐性菌が出現するのを防ぐための対策にも務める必要があります。

また栽培期間以外の時期に、圃場周辺に落下した種子によって生じた苗や、宿主となる野生植物を確実に除去して、さび病の胞子が越夏、越冬するのを防ぐこともまた、栽培開始時期の感染源を取り除くことにつながるため、重要です。

うどんこ病

Erysiphe graminisによって起こる病気です。

名前の通り、葉や葉鞘などに白から灰白色のうどん粉をまき散らしたような病斑ができます。風通しや日当たりの悪い畑で発生しやすく、また遅まきや過剰な窒素肥料などが多発の原因としてあげられます。

さび病菌と同様、オオムギに感染する菌はコムギには感染せず、コムギ菌に感染する菌はオオムギに感染しません。

防除には、多発の原因を取り除くことが重要です。適正な播種量、播種時期を守ること、窒素肥料の多施用を避けることは重要ですし、罹病株の残さなど、次作の伝染源となるものはすき込まずに抜き取って処分することも重要です。

またうどんこ病に有効な薬剤散布の重要な防除策の1つです。薬剤耐性菌の出現を防ぐために、薬剤散布を2回以上行う際には、系統の異なる薬剤のローテーション散布を行います。

萎縮病

コムギ萎縮ウイルス(soil-borne wheat mosaic virus : SBWMV)によって起こる病気で、コムギとオオムギに共通して発生します。この病原体に感染した植物の葉には緑黄色の縞がかすり状につくられます。

またコムギだけに発生する「コムギ縞萎縮ウイルス(wheat yellow mosaic virus : WYMV)」、オオムギだけに発生する「オオムギ縞萎縮ウイルス(barley yellow mosaic virus : BaYMV)」も存在しますが、葉に生じるかすり状の縞だけで見分けることは困難です。

このウイルスは、土壌中に生息する原生動物 Polymyxa graminis によって媒介される土壌伝染性の病害であり、防除には土壌消毒や抵抗性品種の利用などが重要です。

古い情報ではありますが、大藤泰雄『コムギ縞萎縮病の発生生態に関する研究』(東北農研研報104, p.17~ 74、2005年)によると、ウイルスの増殖に最適な温度が約10度、ウイルスを媒介するP. graminisの活動適温が約13〜15度であることが明らかにされており、また論文中では防除法について以下の内容が記されています。

土壌消毒に関しては、鋳方・河合(1940)は鉢試験で土壌を 30 分間 80 ℃で加熱処理すると発病しなくなったとしている。

引用元:大藤泰雄『コムギ縞萎縮病の発生生態に関する研究』p.22(東北農研研報104, 2005年)

そのほか、オオムギ黄萎PAVウイルス(barley yellow dwarf virus PAV : BYDV-PAV)をはじめ、「ルテオウイルス属」と呼ばれるウイルスによって起こり、アブラムシによって媒介される「黄萎(おうい)病」(名前の通り、葉の黄化と萎縮が特徴)や、イネ縞葉枯ウイルス(rice stripe virus : RSV)によってコムギに発生する「縞葉枯病」などがムギ類の病気としてあげられます。縞葉枯病はヒメトビウンカによって媒介され、イネの病気としても有名です。これらの病気に対しては、ウイルスを媒介する害虫に対する防除策がとられます。

 

 

ダイズの病気

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以下、ダイズの代表的な病気です。

紫斑病

Cercospora kikuchiiによって起こる病気です。名前の通り、子実(マメ)の表面に紫色の斑点ができ、品質を著しく低下させます。病原菌は病気に罹った子実中で生存することから、この病気の防除には、健全種子を用いて種子消毒を行うことが重要です。

また罹病茎葉も伝染源となりますが、葉や茎、莢などに赤褐色の病斑をつくるものの判別が困難なため、罹病茎葉にアプローチするというよりは、開花期から若莢期に農薬散布を行うことも重要な防除策となります。

萎縮病

キュウリモザイクウイルス(cucmber mosaic virus : CMV)によって起こる病気で、種子伝染性かつアブラムシによって媒介されます。上記の病気と異なり、病原体はウイルスですが、紫斑病のように子実に斑点ができます。萎縮病の場合は紫色ではなく褐色の斑点です。

種子伝染性であること、アブラムシが媒介することから、発生防止には健全種子を用いて種子消毒すること、アブラムシを防除することが重要です。

モザイク病

ダイズモザイクウイルス(soybean mosaic virus : SMV)によって起こる病気です。上記同様、種子伝染性でかつアブラムシによって媒介されます。葉面に濃淡のあるモザイク症状が現れます。葉が巻いて変形する場合もあります。

萎縮病同様、防除するためには健全種子を用いての種子消毒、アブラムシの防除が重要です。

べと病

Peronospora nabshuricaによって起こる病気です。

病気の特徴としては、葉や莢、子実に、はじめ淡黄色の病斑ができること(その後に褐色に変化)、病斑の裏面に灰白色の分生子をつくることがあげられます。

病原体は、病気に罹った茎葉の組織内で卵胞子の形で越冬することから、防除策としては被害株を圃場内に残さないことがあげられます。

黒根腐病

Calonectoria iliciocolaによって起こる病気です。

黒根腐病に罹った株では、根や地際部が赤褐色になったり、葉に特徴的な黄化した病斑ができたりといった特徴が見られます。農研機構が公開する『ダイズ黒根腐病のリスク診断・ 対策マニュアル』によれば、葉面の病斑が明瞭に形成されない場合もある、と記されていますが、掲載されている写真で特徴的な病斑を見ることができます。

伝染源は罹病根につくられる微小な菌核です。菌核は長期間生存することができるため、連作すると被害が大きくなってしまいます。普通畑でも発生していますが、水田転換畑での被害が大きく、土壌水分が高いと発病が激しくなることが知られています。

上記マニュアルでは“ダイズ黒根腐病は一度発生すると、根絶することが困難な病害です”、“本病に対する登録農薬は少なく、完全な抵抗性を有する品種が見出されていない等、本病防除に利用可能な技術が乏しい現状です”と記されています。

連作を避ける、ほ場排水を良好にするなど、ほ場の環境改善が防除策としてあげられます。

茎疫病

Phytophthora sojaeによって起こる病気です。ダイズのみに病原性があり、転換畑で発生する土壌伝染性の病気です。

茎の地際部を中心に水浸状の病斑をつくり、その病斑は茶褐色から暗褐色へと拡大していきます。生育が進んだダイズにおいては、根や茎の地際部が侵食され、根腐れをともなって枯死してしまいます。

多湿条件や冠水によって発病が助長されるため、被害の軽減には、圃場排水をよくすることが重要です。その他、土壌pHが低いと発生しやすいことから、石灰等で土壌pHを6.5程度に矯正すること、専用の薬剤を用いた防除などがあげられます。

 

参考文献

  • 夏秋啓子『農学基礎シリーズ 植物病理学の基礎』(農文協、2021年)
  • 米山伸吾他『新版 仕組みを知って上手に防除 病気・害虫の出方と農薬選び』(農文協、2022年)

参照サイト

(2024年6月19日閲覧)

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