今さら聞けない「環状はく皮」とは。なぜ皮をはぎ取ると、品質向上につながるのか。

今さら聞けない「環状はく皮」とは。なぜ皮をはぎ取ると、品質向上につながるのか。

環状はく皮とは

花芽誘導や果実品質向上などを目的に枝や主幹の樹皮部分を幅数mm〜1cm程度環状に剥ぎ取る栽培技術

出典元:環状剥皮-ルーラル電子図書館―農業技術事典 NAROPEDIA

のことで、果樹生産の基本的な栽培管理の一つとしてよく知られています。

 

 

環状はく皮を行うことで起こること

今さら聞けない「環状はく皮」とは。なぜ皮をはぎ取ると、品質向上につながるのか。|画像1

 

幹や枝の皮部をはぎ取る目的には“花芽誘導や果実品質向上”のほか、生育旺盛な樹木の生育抑制、成熟促進、増殖などが挙げられます。

皮をはぎ取ることによって、葉でつくられた炭水化物が師管※を伝わって根へと降りるのを遮断することができ、上部の枝葉に炭水化物などが蓄積されることが原理となっています(出典元:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ))。なお、根から吸収された水や無機物は環状はく皮で残された導管※を通って上へと送られるため、上部の枝葉がしおれたり栄養分が不足したりということはありません。

※師管と導管は水や養分の通路となる組織で、師管は栄養分を運び、導管は水を運びます。皮部をはぎ取っても、根から吸収された水や無機物が運ばれる理由は師管と導管がどこにあるかが分かれば理解できます。師管は茎の外側を通って葉の裏側に続いており、導管は茎の内側を通り、葉の表側にあります。

環状はく皮の効果について

柑橘類は7〜8月ごろに環状はく皮を行うと、果実の品質向上につながります。

ルーラル電子図書館によると、ユズやギンナンなど樹勢の強い果樹の場合、環状剥皮を行なうと1〜2年着果が早まり、花も多くなる、と書かれています

キウイフルーツは環状剥皮を施す時期によって異なる効果が得られます。4月に主幹に施すと花腐細菌病の予防に、7月に行うと果実肥大の促進につながります。

ブドウにおいては、環状はく皮による着色不良の改善や果実肥大などについての研究が多数なされています。藤島宏之『環状はく皮処理がブドウ’ピオーネ’の果実品質に及ぼす影響』(園芸学会、2005年)では、環状はく皮による’ピオーネ’の果粒糖度と着色向上は、環状はく皮によって光合成でつくられた栄養分の地上部蓄積の増加と、それに伴い、果粒内に集積された糖とアブシジン酸(ABA)の相乗的な効果によるものと記されています。環状はく皮を行ったブドウ樹の葉には、対照樹に比べて多量のABAが集積され、また葉から果房への転流・蓄積が見られました。本文中にはABAについて以下のように記されています。

ABAはブドウ果粒において糖類の集積を促進すると同時に、果皮におけるフェニルアラニンアンモニアリアーゼの活性を増大させることによってアントシアニン色素生成を促進することが明らかにされている。さらに、片岡らのブドウ果粒切片を用いた実験では、十分な着色を得るためには糖とABAの両者の存在が必要であることが示唆されている。

引用元:環状はく皮処理がブドウ’ピオーネの果実品質に及ぼす影響

宇土幸伸『満開期の環状はく皮処理がブドウ‘シャインマスカット’の 果粒肥大に及ぼす影響』(山梨果試研報第 16 号、2019年)では、‘シャインマスカット’の若木に環状はく皮を行った際、果実品質と果粒肥大にどのような影響を及ぼしたのかが報告されています。

先で紹介した2005年の研究でも、環状はく皮による果粒肥大効果について触れられており、そこには「はく皮による果粒肥大効果については実施時期の影響が大きく、細胞分裂の活性と葉水ポテンシャルの高低が寄与している」と書かれています。同様の研究において、細胞分裂の盛んな時期に実施することで果粒肥大への効果が高く表れることが分かっています。

山梨県果樹試験場が行った2019年の研究では、環状はく皮を年次ごとに第1もしくは第2主枝に交互に行っています(環状はく皮を2011年、2013年に第1主枝、2012年、2014年に第2主枝に行った)。

その結果、初結実の2011年は環状はく皮を行った区も対照区も果粒重が10gに達しなかったものの、樹齢を重ねるごとに果粒重が増加し、いずれの年次も環状はく皮による果粒肥大促進効果が見られました(『満開期の環状はく皮処理がブドウ‘シャインマスカット’の 果粒肥大に及ぼす影響』p.16第1図)。

環状はく皮の難点

とはいえ、環状はく皮にも難点はあります。

まず、環状はく皮は生育旺盛な樹木の生育抑制にも役立つ分、樹勢の低下などで栄養分が少ない状態の樹に環状はく皮を行うと、樹が一気に衰弱する場合があるので注意が必要です。環状はく皮は根の伸長を停止させ、樹を衰弱させる点でも懸念されています。

また樹勢を維持するため、処理した部位を年内に一部でも癒合する必要があります。しかしこの癒合が不良だと、樹の衰弱につながります。癒合不良の要因には、環状はく皮を行う時期やはく皮の幅、はく皮の方法などが挙げられます。農研機構が公開する「果樹の温暖化適応技術」によると、

  • 環状はく皮の適期ははく皮の幅にかかわらず満開後30~35日目
  • はく皮の幅は狭い方が癒合が良好になる(主幹に環状はく皮を行う場合は5mm程度で十分)
  • はく皮部にビニルテープなどを巻くと癒合が促進される

とあります(「果樹の温暖化適応技術」p.13〜14)。

また上記2019年の研究では糖度の低下についても記されています。過去の研究より、‘シャインマスカット’において、果粒重と糖度には負の相関関係が認められています。2019年の研究結果を見てみると、環状はく皮区(2011〜2014年)では糖度18.6 ゚Brix、対照区は 19.6 ゚ Brix と、環状はく皮を行った‘シャインマスカット’の糖度がやや低下しているのがわかります。この結果を受けて「食味は問題ないが、処理により果粒肥大が促進されることから着果過多には注意が必要である」と書かれています。

 

 

環状はく皮で得られる効果をうまく利用するために

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先で紹介した難点をふまえ、環状はく皮を行う際に注意すべき点を以下にまとめます。

  • はく皮の幅は狭くする(癒合が良好になる、主幹には5mm程度で十分)
  • はく皮は内側の薄皮もきれいに取るよう、丁寧に行う
  • はく皮後は極端な乾燥を避け、かん水を適宜行う
  • はく皮部の木片などのごみはきれいに取り除き、幅の広いビニールテープなどで保護する
  • 樹勢の弱い樹では環状はく皮を行わない
  • 着果過多の樹には環状はく皮を行わない(行っても効果はほとんどない)

環状はく皮を行う時期についても、果樹の種類や品種、環状はく皮を行う目的に応じて、最適な時期を確認して行います。

単に皮をはぎ取るだけでは効果を得られません。また、環状はく皮によって樹を衰弱させないためにも、果樹や圃場そのものが生育、生産に良好な状態を保てるよう心がけましょう。

 

参考文献

  1. 環状剥皮-ルーラル電子図書館―農業技術事典 NAROPEDIA
  2. 環状剥皮(除皮) | なるほど園芸用語 | カルチベ – 農耕と園藝ONLINE
  3. 環状はく皮処理がブドウ’ピオーネの果実品質に及ぼす影響
  4. 満開期の環状はく皮処理がブドウ‘シャインマスカット’の 果粒肥大に及ぼす影響
  5. 「果樹の温暖化適応技術」

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