耕作放棄地の活用や地域活性化で注目を集める枝物栽培について

耕作放棄地の活用や地域活性化で注目を集める枝物栽培について

近年、耕作放棄地対策として注目を集めている作物に「枝物」があります。枝物とは生花やフラワーアレンジメントなどに用いられる梅や桜といった枝をもつ植物の総称です。本記事で紹介する事例の中には枝をもたないものもありますが、いずれも花や実、葉などが美しい植物が耕作放棄地対策や地域活性化につながる新たな作物として注目されています。

本記事では、どのような枝物に需要があるのか、栽培のメリットや注意点について紹介していきます。

 

 

枝物栽培にはどんなものがあるのか

耕作放棄地の活用や地域活性化で注目を集める枝物栽培について|画像1

 

JA常陸大宮地区では、2019年時点で花桃、柳類を中心に約250品目に及ぶ枝物が栽培されています。桃の節句に合わせて花桃の生産が行われています。

株式会社太田花きが公開した記事によると、桃の節句は旧暦3月3日で、新暦3月3日ではまだ気温が低く、花桃が開花する季節ではないのだとか。そこでこの地区では、つぼみの固い2月に収穫し、温度と湿度をコントロールした温室に入れて、花芽を促成させ、時期に合わせた出荷を行っています。

朝日新聞に取り上げられた福島県浪江町の事例では、ユーカリやアカシアなどの樹木が栽培されています。

他にも農山村支援センターの資料に掲載されている長野県下伊那郡松山町の事例では、花材としても人気のあるアブラドウダンやナツハゼを、『現代農業 2018年11月号』(農文協、2018年)の事例でも同じくナツハゼの他、花、葉、実の全てが商品となるハスやカキツバタ、ススキも紹介されています。

枝物栽培のメリット・デメリット

耕作放棄地の活用や地域活性化で注目を集める枝物栽培について|画像2

 

耕作放棄地対策として注目される理由の一つに栽培作業の簡便さがあげられます。

耕作放棄地は土地が荒れており、土壌中の栄養が少ない状態にあります。整地作業には時間がかかりますし、そのままの状態では野菜の栽培に適しません。枝物であれば、土壌栄養素が比較的生産しやすく、病虫害の被害も少ないことから、日常的な管理作業の軽労化が図れます。野菜と違い、毎日収穫する必要もありません。それに加え、何年も使われなかった耕作放棄地であれば、農地に永年作物である樹木を植えることへの抵抗が少ないということも取り組みやすさの要因といえます。

デメリットは、やはり商品として扱う以上、高い品質を維持するためにはそれなりに手間がかかるという点です。

たとえば『現代農業 2018年11月号』で紹介されている枝物栽培の事例では、ハスが雹害に遭わないようハス田を6つに分散させてリスクを減らしたり、カキツバタの出荷の際、状態のいい花と葉をセットで販売するために、別の田から状態のいい花と葉をそれぞれ選んで収穫したりと、手間暇をかけて生産・販売しています。

枝物の種類や販売方法によっては、コストパフォーマンスのいい作物にはならない場合も十分考えられるのです。

枝物栽培の注意点

枝物栽培を始める際、重要なのは生産を行う植物と市場のマッチングといえます。生産を始める前には、市場を調査して売れ筋を知ること、需要のある枝物がどこで手に入るのか、栽培を考えるほ場での生産に適しているかどうかを事前に調べる必要があります。

またコストパフォーマンスの検討も重要です。出荷時期をコントロールするための設備投資や維持費によって経営状況が厳しくなる可能性はないか、事前に計算しておくことが大切です。

加えて、枝物は商品として収穫できるまでに年月を要する場合があることを理解する必要もあります。枝物栽培を行う事例の中には、年月を要するのを見込み、主業的農家に作物転換を勧めるのではなく、準主業的農家や自給的農家を中心に、草刈りだけを行っている畑に枝物栽培を勧め、耕作放棄地の縮小を図る取り組みが行われています。

 

参考文献

  1. ユーカリやアカシアで農業復興を 福島で「枝物」栽培:朝日新聞デジタル
  2. カンショと枝物で荒廃農地再生 「儲かる農業」へ茨城県の挑戦 新世紀JA研セミナー 2023年2月16日
  3. 耕作放棄地を活用した枝物産地の育成
  4. vol.126 JA常陸大宮地区枝物部会様:茨城県 花桃/耕作放棄地解消モデル | 株式会社大田花き
  5. 枝物生産(花木)

『現代農業 2018年11月号』p.174〜179(農文協、2018年)

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