近年、日本で取り組まれている有機農業※1は増加傾向にあります。農林水産省のウェブサイトによると、有機農業取組面積は平成23(2011)年に19.4千haでしたが、令和3(2021)年には26.6千haと、10年で37%増加しています。
また有機JAS※2格付面積においては10年で61%増加しています(平成23年は9.5千ha、令和3年は15.3千ha)
※1
平成18(2006)年度に策定された「有機農業推進法」において定義された農業のこと。定義は以下のとおり。
- 化学的に合成された肥料及び農薬を使用しない
- 遺伝子組換え技術を利用しない
- 農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減する
(出典:【有機農業関連情報】トップ ~有機農業とは~:農林水産省)
※2
有機食品の検査認証制度を指します。JAS法に基づき、「有機JAS」に適合した生産が行われていることを登録認証機関が検査し、その結果、認証された事業者のみが有機JASマークを貼ることができます。(出典:有機食品の検査認証制度:農林水産省)
世界の有機食品の売上は増加し続けていること、日本の有機食品の市場規模も、消費者アンケートの結果から、2009年には1,300億円、2017年には1,850億円、2022年には2,240億円と推計されているように、需要の増加がみられます。
有機農業の取組面積が拡大傾向にあること、需要が増加していることから、有機農業を始めたい人はいるかと思いますが、収量や品質の安定が難しく、生計が成り立つようになるまで年数がかかる傾向があることが、始める際の課題となっています。
有機農業を始めたい農家向けの交付金
環境保全型農業直接支払交付金
『季刊地域 秋号(55号) 2023年11月号』(農山漁村文化協会、2023年)に、以下の一文が記載されています。
有機農業産地づくり推進事業を導入した市町村では「環境保全型農業直接支払(環直)」を利用するところも多い。交付対象となる取り組みメニューの中に、堆肥活用やカバークロップなどと合わせて有機農業が入っている。個人農家では交付要件が厳しいが、白川町のゆうきハートネットのように、団体として申請する方法がある。
引用元:『季刊地域 秋号(55号) 2023年11月号』p.31〜(農山漁村文化協会、2023年)
“個人農家では交付要件が厳しい”と記載されていますが、有機農業に取り組みたい人はチェックしておいて損はないはずです。
環境保全型農業直接支払交付金は、環境保全型農業に係る施策が変遷する中で※3、「化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減する取組」と合わせて行う「地球温暖化防止や生物多様性保全等に効果の高い営農活動」を支援するものであり、日本型直接支払※4(多面的機能支払交付金、中山間地域等直接支払交付金、環境保全型農業直接支払交付金)の一つとして実施されている交付金です。
※3
平成19(2007)年度から開始した「農地・水・環境保全向上対策」において、地域ぐるみで「化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減する取組」に対する支援が始まりました。
平成23(2011)年度には、地球温暖化防止や生物多様性保全への対応が国際的な動きとなり、「地球温暖化防止や生物多様性保全に効果の高い営農活動」への支援が開始されます。
平成26(2014)年度、農業、農村の有する多面的機能の維持・発揮を図るために、中山間地域等直接支払、多面的機能支払、そして上記支援策が後述する「日本型直接支払制度」※4として位置付けられます。
以下、詳細は農林水産省の資料「環境保全型農業直接支払交付金について」のスライド1ページ目をご覧ください。
※4
日本型直接支払制度の概要は以下の通りです。
日本型直接支払制度とは、農業・農村が持つ国土保全や水源かん養などの多面的機能の維持・発揮のために行う地域の共同活動や営農活動を支援する施策で、多面的機能支払、中山間地域等直接支払、環境保全型農業直接支払の3つの直接支払で構成されています。
以下に概略図を示します。詳細は「環境保全型農業直接支払交付金について」のスライド3ページ目をご覧ください。
環境保全型農業直接支払交付金の交付条件にはさまざまなチェック項目があります。
対象となる取り組み、対象となる農業生産活動のチェックはもちろん、支援の対象となる農業者の要件をクリアしているか、そもそも対象者の条件を満たすかといった点です。下記に条件を簡潔にまとめたものを記載しますが、この制度に興味がある方は、ぜひ一度市町村の農業事業担当者に相談してみてください。
- <対象となる取組>
化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減する取組+地球温暖化防止に効果の高い営農活動
例)有機農業、堆肥の施用、カバークロップ等(土壌中に炭素を貯留し、地球温暖化防止に貢献するもの)+生物多様性保全等に効果の高い営農活動
例)有機農業、冬期湛水管理、総合的病害虫・雑草管理(IPM)(様々な生物を地域で育み、生物多様性保全に貢献するもの) - <対象となる農業生産活動等>
有機農業、堆肥の施用、カバークロップ、リビングマルチ、草生栽培、長期中干し、秋耕 など - <支援の対象となる農業者の要件>
販売を目的に生産を行っていること
+
みどりのチェックシートによる持続可能な農業生産を実施していること
+
事業要件
自然環境の保全に資する農業の生産方式を導入した農業生産活動の実施を推進する活動(推進活動)12項目(記事内では省略)の中から1つ以上実施していること - <対象者>
1 農業者の組織する団体
2 一定の条件を満たす農業者
以下の①〜②のいずれかに該当する事業者であって、市町村が特に認める場合、対象となる。
①集落の耕地面積の一定割合以上の農地において、対象活動を行う農業者
②複数の農業者で構成される法人
またこの制度は予算の範囲内で交付金を交付する仕組みです。そのため、申請額の全国合計が予算額を上回った場合には、交付額が減額されることがあります。
有機転換推進事業
有機転換推進事業は「みどりの食料システム戦略緊急対策交付金」の中に含まれるもので、有機農業へ切り替える農家などが対象となっています。有機農業への切り替えによる減収や有機種苗の購入や土づくり、病害虫が発生しにくい圃場環境の整備や有機JAS認証取得などの経費負担を軽減し、有機農業の推進を後押しすることを目的としたものです。
この事業の対象者は、以下の事項を全て満たす者となります。
- 国際水準の有機農業に新たに取り組む農業者
(慣行からの転換者又は新規就農者)- 営農の一部又は全部において国際水準の有機農業に取り組むことを予定していること。
- 販売を目的としていること。
- 本事業終了後も引き続き、国際水準の有機農業を継続する意向があること。
引用元:有機農業への転換に向けて
“国際水準の有機農業”とは、有機農産物の日本農林規格に定められた取組水準のことを指します。
すでに有機農業に取り組んでいる農業者であっても、これまで有機管理を行っていない農地で新たな品目を生産する場合は支援対象となります。ただし、すでに有機農業に取り組んでいる農業者が同一品目で面積を拡大した場合には対象外となります。
令和5(2023)年度の取組分の募集は終了していますが、県内各市町村がとりまとめを行っているので、興味のある方は農地の所在する市町村へ相談してみてください。たとえば徳島県のウェブサイトには「次年度取組分の募集については、改めてお知らせします」と記載されています。
有機農業新規参入者技術習得支援制度
新たに有機農業に取り組む農業者が有機JAS認証を取得するのに必要な知識や経験を学ぶ機会を提供するものとして、有機農業新規参入者技術習得支援制度があります。
補助対象経費には、有機JAS講習会の受講として上限3万円、ほ場実地検査の受検として上限9万円があげられます。
補助対象者の条件は以下の通りです。
- 営農の一部若しくは全部において国際水準の有機農業に取り組んで5年以内である、もしくは今後取り組むことを予定していること
- 過去に有機JASほ場実地検査を受けていないこと
- 本事業期間中または終了後、有機JAS認証を取得する意向があること
- 補助事業運営会社が行うアンケート調査や事業実施年度の翌年度以降に行う有機JAS認証取得状況調査に協力すること
2023年11月23日現在、ウェブサイトには応募申込期限は「2023年12月22日まで」と記載されています。有機JAS認証に興味がある人はぜひ問い合わせてみてください。
チェックしておきたいウェブ情報
農林水産省が公開するウェブサイト「有機農業関連情報」には、有機農業に対する支援の情報が記載されています(ウェブサイトページ下にある「有機農業に対する支援の情報」)。個人で申請できるものは少ないかもしれませんが、有機農業に関連する幅広い支援制度が公開されています。こちらも合わせてご確認ください。
参考文献
- 季刊地域 秋号(55号) 2023年11月号(農山漁村文化協会、2023年)
- 環境保全型農業直接支払交付金について
- みどりの食料システム戦略緊急対策交付金のうち有機転換推進事業について|徳島県ホームページ
- 【有機農業関連情報】トップ ~有機農業とは~:農林水産省
- 有機農業への転換に向けて
- 有機農業新規参入者技術習得支援事業