農業分野に限らず、ウクライナ情勢の影響などで原材料価格の高騰が続いています。
価格高騰が及ぼす影響
NHK NEWS WEBが2023年7月に公開した記事によると、JA徳島が開催した大会に県内の農家などおよそ800人が集まり、原材料価格の高止まりが農業経営に与える影響について意見を交わした、とあります。
費用の増加分を販売価格に転嫁できることが望ましいものの、農家の取り組みは「販売価格の上昇<経費削減」となっているのが現状です。
同記事によると、JA徳島が2020年の1年間の平均を2023年1月の原材料費と比較したところ、肥料は約6割、燃料費は約4割上昇したにもかかわらず、販売価格は1割未満の上昇にとどまっている、とあります。
値上げを行うポイント
JA徳島が開催した大会では国や県に経費増加分を販売価格に転嫁できる仕組み作りを要望する声もあがった、とあります。経費削減だけではいよいよ経営が厳しくなってきたという時、自発的に価格転嫁に取り組む必要が生じるかと思います。その際におさえておきたい値上げを行うポイントをご紹介していきます。
対事業者(小売店や飲食店、加工業者といった取引先が相手)の場合、「取引先の見直し」と「粗利率の改善」がポイントとなります。
既存の顧客に対して販売価格を上げることだけが価格転嫁の方法ではありません。価格交渉の余地がある、またはより高く買ってもらえる相手を探すことも重要です。すぐに取引を辞めるのは難しいこともありますが、場合によっては、「値上げするなら取引をやめる」という姿勢の既存顧客との取引をやめることも手段の一つといえます。
商品ごとに利益率を設定し、販売の目的を利益率が高い商品と低い商品で使い分けることも価格転嫁のポイントです。利益率の高い商品で自分たちの利益率を向上させ、利益率の低い商品は集客目的で販売するといった方法です。
対消費者の場合、よくとられる手段に、価格は変えず容量を減らす方法がありますが、容量の変化に気づく消費者は少なくありませんし、結局のところ、売り上げ減少につながることが多いとされています。
このことをふまえ、消費者に価格が少し高いものを買ってもらうためには、消費者の社会的・個人的なニーズを満たす「こだわり」の商品を提供する必要があります。
消費者は「生きていくために必要」といった基本的なニーズに対しては、商品を調べたりこだわったりしませんが、社会的に周りから見られることを前提としたものや自己実現、自己表現につながるものに対しては、商品を調べたりこだわったりするものです。
商品自体の価値を高めることができれば、値引きをせずとも消費者の購入意欲につながります。
現代において、商品価値を伝えるのに役立つウェブサイトの存在は欠かせません。SNS上などで、写真や動画、文章などを活用し、商品の価値を訴えかけることは効果的なアプローチのひとつです。
「商品の価値」をベースに価格を設定する
本記事では商品価値を高める方法をおすすめしました。価格設定のアプローチにおいても、経費削減だけに取り組むのではなく、商品に付加価値を加える分、少数の顧客に販売して利益を稼ぐ方法や、「差別化」を徹底し、価格競争を避けるアプローチをおすすめします。
人件費の削減や肥料や農薬のコストダウンももちろん効果的ですが、「商品の価値」というものをベースに価格を設定できれば、冒頭で取り上げた、世界情勢によって変動する原材料価格の高騰などに経営が左右されるのを抑えることができるといえます。
参考文献
- フィリップ・コトラー&ケビン・L・ケラー,『コトラー&ケラーのマーケティングマネジメント 第12版』,恩蔵直人監修,月谷真紀訳,丸善出版,2014年
- 小川孔輔,『「値づけ」の思考法』,日本実業出版社,2019年
- 小阪裕司,『「価格上昇」時代のマーケティング』,PHPビジネス新書,2022年
- 「経費削減限界 コスト増を価格転嫁の仕組みを」農家が集会|NHK 徳島県のニュース
- 値上げのマーケティング〜適正な価格転嫁に向けて〜_ シリーズ「激流の時代を乗り越える農業経営を目指して」 vol.1|アグリウェブ
- 価格のつけ方を論理する_ シリーズ「激流の時代を乗り越える農業経営を目指して」 vol.2|アグリウェブ