消費者と生産者、その双方に浸透している「地産地消」という取り組み。少々古いデータではありますが、2007年3月にはすでに「地産地消」に対する関心の高さが報告されています。全国の消費情報提供協力者1,500名を対象として実施された「地産地消に関する意識・意向」調査(回収率77.7%)では、”全国の消費者の9割が地産地消を意識した日常生活を送る”といった回答が得られています。生産者の生産意欲を高めるだけでなく、消費者からの関心も高い「地産地消」ですがそれならではのメリット・デメリットもあります。
地産地消とは
地産地消は、地域で生産された食用の農林水産物を、その生産地域において消費するという取り組みを指します。直売所や生産業者自身が加工するなどの取り組みを通じて、近年注目されている「6次産業化」にもつながる取り組みです。
地産地消という言葉は、昭和56年から使われるようになりました。地域特性を生かした食生活の構築と農村部の健康増進を図ることを目的に、農林水産省が進めた「地域内食生活向上対策事業」で登場した言葉です。
地産地消が浸透すれば、生産物の地域性が失われる心配は減るでしょう。どの生産者がどこで生産したかどうかも把握しやすくなります。生産過程を追跡することができる「トレーサビリティ」※という言葉が浸透し始めたのは、BSE(牛海綿状脳症)問題から「牛肉のトレーサビリティ」を農林水産省が導入した2003年からと言えますが、その前から、生産地の不透明性や生産物の地域性が失われてしまうことを防ぐために、また消費者と生産者の距離を縮めたいという意識の高まりがきっかけで、地産地消の取り組みは浸透していったのです。
※追跡を意味する「trace」と、できることを意味するabilityを合わせた言葉で「追跡可能性」「生産履歴追跡」などと訳される。
地産地消のメリット・デメリット
メリット
- 流通経費を削減することができる
- 生産者が直接販売することができる
- 消費者のニーズが捉えやすい
- 消費者の声が届きやすい
- 農業技術が地域に根付き、農業技術の保全になる
などが挙げられます。
地域で生産するものを地域で消費するわけですから、流通範囲や消費者のニーズを広く設ける必要がありません。流通範囲が地域内で完結することで、流通経費が削減できれば、手取りを増やすことに期待ができます。また消費者との距離が近いため、直接販売などを通じて商品価値を説明することができれば、規格外品の販売もしやすくなりますし、少量品目に取り組みやすくなると言えます。
なお地産地消のメリットは生産者側だけのものではありません。消費者側のメリットとしては、
- 新鮮な農産物を手に入れることができる
- 生産状況を自分で確認することができる
などが挙げられます。
デメリット
地産地消における生産者側のデメリットとして「生産以外の能力が必要になる」ことが挙げられます。その地域内で生産と流通を完結させる際、出荷や販売、品質管理や宣伝活動など、農産物の生産以外の能力が求められることが多々あります。生産以外の能力が求められるということは、その分の労力が必要になるということです。またただ単に「地産地消」と打ち出しただけで農作物が売れるわけでもありません。その地域のブランドとして認められるような、販売戦略や品質の工夫がなければ、生産・販売をその地域内で完結させることも難しくなります。
地産地消、6次産業化の成功事例
地産地消ならではのデメリットもありますが、農村部の現状から考えると地産地消や6次産業化は前向きに検討して損はないでしょう。農業従事者の高齢化が進んだことで起きた農山漁村の過疎化や農業の担い手不足、耕作放棄地の増加などは、現代の日本農業が抱えている問題です。しかしそんな状態にある農山漁村で十分な所得が得られる産業が育てば、地域の再生と活性化が期待できます。
北海道東神楽町では地産地消の「学校給食」に取り組んでいます。東神楽町はコメやアスパラガス、スイートコーンなどがまちの特産品として栽培されています。さまざまな農産物に恵まれた地域ではありましたが、学校給食が平成5年度に開始されてから平成25年度に地産地消の取り組みが謳われるまでの間、利用率は金額ベース換算で10%以下と低い状態でした。しかし平成26年度から食育推進が進み、
- 子供たちから募ったアイディアで地場食材をつかったメニューを開発
- 地場食材を安定的に供給するルートの整備
することによって、地産地消の学校給食が実践されるようになりました。
地産地消と聞くと地方農業の姿が浮かびますが、東京都でも地産地消の取り組みが行われています。株式会社エマリコくにたちは、東京の市街地周辺の農家さんから集荷・買取を行い、東京都内の消費者に流通させることを目的に、流通を行なっています。地産地消のデメリットとして「生産以外の能力が必要になる」と紹介しましたが、エマリコくにたちは、生産者が生産に集中できるような環境を提供することで、東京都内の農業をサポートしています。
参考文献