日本の農林水産物・食品の輸出額は増加傾向にあります。2012年には約4,497億円だった輸出額は、2021年には1兆円を突破しています。
日本国内は少子高齢化に伴い、高齢者人口の増加、人口の減少によりマーケットの縮小が進んでいくことが予想されます。しかし世界全体の人口は増加傾向にあり、世界に目を向けたときの農産物やその加工品のマーケットは伸長が期待されます。
そこで本記事では、農産物を国外に向けて販売・アピールする際のポイントをご紹介していきます。
注目キーワードは「マーケットイン」
日本の農林水産物・食品の輸出拡大を進める上で求められているのは、「プロダクトアウト」から「マーケットイン」への転換です。
これらはマーケティング用語で、端的に違いを説明すると以下のようになります。
- プロダクトアウト 「はじめに商品ありき」の考え方
- マーケットイン 「はじめに顧客ありき」の考え方
辞書で引くと、以下のように説明されます。
プロダクト・アウトとは、企業が開発・生産した製品を販売促進の強化によって、消費者へ売り込む技術先行型のスタイルのこと。それに対して、消費者のニーズに合わせて企業が製品を開発・供給する市場ニーズ先行型のスタイルをマーケット・イン market-inと呼ぶ。
出典元:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
生産者がいいと思ったものを作り、販売するのがプロダクトアウトで、従来の農産物(穀物や一部の貯蔵できる青果物を除いた生鮮品)はプロダクトアウトといえます。プロダクトアウトでは鮮度がリスクとなり、供給が需要を上回る場合には値崩れが起きやすいのがデメリットです。
一方マーケットインは消費者のニーズに合わせて生産を行います。注文を受けてから生産販売を行う「受注販売」はマーケットインの代表的な事例です。
農業生産を完全なマーケットインで行うのは難しいですが、農産物の販売やアピールにおいてマーケットインの考えは有効です。特に国外への販売を考える場合には、その国と日本の違いを理解して販売する商品や販売方法を考えることがとても重要です。
国内外の違いを把握する
輸出を含め、国外へのアプローチ方法には、日本の商品を現地市場に合わせずそのまま販売する「標準化」と呼ばれるものもありますが、商品によっては国外の消費ニーズに合わせてアプローチする「適応化」が求められる場合もあります。
標準化と適応化、どちらでアプローチするかは商品の特性や国内外のニーズや市場の比較から導く必要がありますが、国外に向けての販売を意識しているのであれば、農産物の販売先、アプローチ先と日本の違いを把握することは重要です。
まず、日本とは社会環境が異なることを理解したいところです。法規制が異なるだけでなく、文化や宗教の違いから消費者の行動や意識にも大きな違いがあるといえます。
違いを知るには現地視察が一番ですが、以下の情報源は必要な情報を集めるのに役立ちます。
- 外務省のウェブサイト
- JETRO(日本貿易振興機構)のウェブサイト
- 現地に住む日本人のブログや書籍
- 現地に住む人のSNSなど
海外消費者に向けて商品価値を伝える際のポイント
日本国内においても、ターゲットとなる国の人に向けて商品価値を伝える際、その国の言語を用いてチラシやパンフレット、ウェブサイトを作る機会が生じるかと思います。その際も、国ごとの文化や言語の違いを意識して商品価値を伝えていきましょう。
特に、商品価値を伝えるための文章を直訳しないよう注意したいところです。
商品価値を伝えることが重要です。ターゲットとなる国の言語で紹介する場合には、日本語の文章よりも短く簡潔に、できるだけシンプルな表現の文章になるよう心がけましょう。
言語の壁を感じるかもしれませんが、その際に役立つのが図や写真や動画の活用です。文章よりもわかりやすく商品価値を伝えることができます。ウェブサイトやSNSに写真を掲載したり、YouTubeなどに動画をアップロードしたり、伝えるのに最適な媒体を活用してみてください。
考えてみれば納得できると思いますが、日本国内で広く知られている地名や特産品の名称をそのまま翻訳するのも避けましょう。国外の人にとっては馴染みのないものです。商品価値が伝わるためには、訴求する内容をターゲットとなる国ごとに変えていくのも有効です。
日本の輸出重点品目とは
最後に、農林水産省が公開する「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」より、輸出重点品目として紹介されている日本の農産物をご紹介します。
輸出重点品目として、果樹(りんご、ぶどう、もも、かんきつ、かき・かき加工品)、野菜(いちご)、野菜(かんしょ等)、茶、コメ・パックご飯・米粉及び米粉製品があげられています。
海外で評価される日本の強みとして、果樹と野菜(いちご)は甘くて美味しく、見た目も良い部分があげられていました。野菜(かんしょ等)はアジアで焼き芋が人気となり、輸出が急増しているのだとか。茶は健康志向の高まりと日本文化の浸透により、せん茶や抹茶が欧米を中心に普及しています。コメ類も日本食の普及とともに拡大が見込まれると期待されています。
参考文献
折笠俊輔『農家の未来はマーケティング思考にある EC・直売・輸出 売れるしくみの作り方』(イカロス出版、2021年)資料3 農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略 ~マーケットイン輸出への転換のために~ 令和