近年、環境問題の観点から「脱プラスチック」への動きが広まっています。この動きは、世界のさまざまな問題を2030年までに世界全体で解決していく「SDGs: Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の目標14「海の豊かさを守ろう」にも関係します。
世界中でプラスチックを禁止する法案や、プラスチック製品の使用を控える取り組みが増えています。日本でも、2020年7月1日からプラスチック製買物袋(レジ袋)が有料になったり、飲食チェーン店で提供されるストローがプラスチック製から紙製になったりしています。
農業においても「プラスチックの使用を減らそう」という取り組みは行われています。農業から出るプラスチックごみに対する取り組みは、以下の記事で取り上げています。
農業にも関係するプラスチックごみ問題!必要不可欠な生産資材「プラスチック」のごみを減らすには|農業メディア|Think and GROWRICCI
本記事で着目するのは、農作物を販売する際にプラスチックを減らす、使わないという取り組みについてです。
プラスチックフリー、ゼロウェイストという言葉をご存じでしょうか。
プラスチックフリー、ゼロ・ウェイストとは
プラスチックフリー(Plastic Free)は、プラスチックを使用しないことを意味する言葉です。冒頭で述べた「脱プラスチック」や「ノープラ」「プラなし」と表記されることもあります。
ゼロ・ウェイストは、イギリスの産業経済学者マレー(Robin Murray)が提唱した概念で、プラスチックに限らず、ごみの発生を回避することを目的としています。
「ゼロ・ウェイスト」とは、ごみを焼却、埋立て処理をせず、資源の浪費や、有害物質や非再生可能資源の利用をやめて環境負荷を減らしながら、堆肥(たいひ)化などの物質回収や再生可能エネルギー利用、リサイクルによって、ごみをゼロにする考え方。
引用元:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
先で“プラスチックに限らず”と書きましたが、エネルギー消費を減らし、環境負荷が少ない自然代謝を最大限に活かした社会を目指しているといえる考え方において、プラスチックの使用を減らす、なくす取り組みは重要といえます。
商品販売時に使用されるプラスチック
プラスチックは、あらゆるものの包装や容器などに利用されています。
たとえば、消費者がスーパーマーケットで野菜や果物を買おうとするとき、プラスチック製の袋や容器に入った野菜や果物を目にすることになります。プラスチック包装、容器は農作物の販売に限りません。レジ袋は有料になりましたが、お菓子などを見てみるとプラスチック製の袋の中で、さらに小分け包装されています。
こう見ると、プラスチックなしの生活は現実的ではないと思われるかもしれませんが、野菜と果実の販売スタイル次第でプラスチックの使用をグッと減らすことができます。たとえばヨーロッパなどでは、自分がほしい食材をほしい分だけ袋に入れる量り売りが主流であり、消費者が布製の袋を持参すればプラスチックフリーは実現できます。
日本でのプラスチックフリーな販売事例
日本にも量り売りで商品を提供するお店はあります。
オーガニック食材やワイン、量り売り什器、エコ雑貨などの輸入、卸、小売を行う株式会社斗々屋は、量り売りのモデルショップ「nue by Totoya」をオープン。2021年7月には、乾物や液体だけでなく、野菜や果実、惣菜なども販売するゼロ・ウェイストなスーパーマーケット「斗々屋 京都本店」をオープンしています。
また2018年には、東京都渋谷区渋谷3丁目に所在する複合商業施設「渋谷ストリーム」の開業に合わせて開催されたフェスティバルの中に、Zero Waste Marche という企画が登場し、パッケージされていない野菜や果物の販売が行われました。
農家からそのまま消費者へ。パッケージフリーな食材を手に入れるゼロ・ウェイスト・マルシェ|世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン IDEAS FOR GOOD
近年注目度の高い産直通販サイト「食べチョク」でも、【SDGs特集】と題し、紙や新聞紙で包装することでプラスチックを減らす取り組みを行う農家の商品を取り扱っています。【SDGs特集】に掲載されている商品ページを見ると、「SDGsについて」という項目に、プラスチックの使用削減の取り組みとして、紙包装で商品を配送している旨等が書かれています。
【SDGs特集】プラスチックフリーの商品|食べチョク|産地直送(産直)お取り寄せ通販 – 農家・漁師から旬の食材を直送 –
世界各国のプラスチック袋代替事例
レジ袋だけでなく、他のプラスチック製品の利用に制限を設ける国もあります。
たとえば台湾では、2020年から小売店でのプラスチック製の買物袋や使い捨てプラスチック容器等の提供が制限、禁止されていますが、2025年には使用する場合には手数料の支払い義務が課され、2030年には使用を全面的に禁止することが計画されています。
フランスでは2020年1月から、使い捨てプラスチック容器の使用が禁止されているなど、プラスチック製品への規制が日本よりも厳しい国は少なくありません。
そして消費者の意識が高まっていることもあり、世界各国ではプラスチック袋に代わるものの開発が進んでいます。
タイでは、2019年3月に野菜の包装をプラスチックからバナナの葉に変えています。タイでは昔、バナナの葉でお弁当を包んでいたとのこと。
考えてみると日本でも、ちまきや柏餅など、植物の葉で包んだ食品はありますし、かつて精肉店では包装紙の代わりに竹の皮や経木(きょうぎ:スギやヒノキなどを用いた薄い木の板)が用いられていたことから、プラスチック包装の代替として植物の葉を利用するアイデアは実践しやすいかもしれません。
インドでは食べられる袋が実用化されました。見た目はビニール袋そっくりですが、ジャガイモやタピオカなどの原料でできた生分解性の袋で、180日以内に自然に還ります。
日本ではエディブルインク、すなわち食べられるインクを利用して、包装せずに野菜を販売する実験が行われました。東京都練馬区で350年続く農家・白石農園とノウ株式会社が行った取り組みで、食用色素などを用いたインクのペンで、手書きまたはステンシルによる転写で野菜に直接商品情報を記載したものです。
参考文献