安定的な農業経営のために。稲作後などの水田を利用した野菜づくりについて【後編】

安定的な農業経営のために。稲作後などの水田を利用した野菜づくりについて【後編】

水田を利用した野菜づくりの背景については前編でご紹介しています。

 

 

水田を利用した野菜づくりのノウハウ

安定的な農業経営のために。稲作後などの水田を利用した野菜づくりについて【後編】|画像1

 

水田を利用する際の課題

まず「ほ場の排水性」を確認しましょう。水田を利用して野菜づくりを行う際、これは最も問題になる事項です。

そもそも多くの野菜は湿害に弱い特徴があります。

雨が降るなどして野菜の育つ土壌が湛水状態になると、土壌中の酸素は作物の根や土壌中の微生物によって消費され、根域の酸素量は少なくなります。水稲の場合、根に形成される通気組織により、地上の酸素を根に供給することができます。しかし野菜の根には水稲のような通気組織はありません。そのため根に酸素が行き届かなくなり、根は壊死します。地上部が枯れなかったとしても、養分が不足することなどから生育が遅れ、収量の低下につながります。

また排水性の悪いほ場は、雨が降った後、トラクタで作業できるようになるまで乾燥するのに時間がかかり、作業が遅れるといったデメリットもあります。それに、水分を多く含んだ状態の土壌で耕うんすると、土の塊を細かく砕くことができず、ゴロゴロとした土の塊ができてしまいます。これは発芽不良などの原因となります。

このようなことをふまえ、水田で安定した野菜づくりを行う場合には、

  • できるだけ水はけの良いほ場を選ぶ
  • 的確な栽培計画を立て、その計画に従って作業する
  • 地表や地下の水を速やかに外へと排出する対策を行う

ことが重要です。

水田で野菜づくりに取り組む前にやっておきたいこと

安定的な農業経営のために。稲作後などの水田を利用した野菜づくりについて【後編】|画像2

 

排水対策についてご紹介する前に「的確な栽培計画」についてご紹介します。稲作後に野菜を栽培するため、秋から冬が収穫時期になります。栽培する野菜にもよりますが、スケジュールとしては

  • 8月中旬〜9月上旬 播種
  • 9月上旬〜9月下旬 定植

が一般的です。しかしこの時期は、稲刈り作業と重なったり、台風など天候が不安定な時期であることをふまえた上で作業を行わないと、作業が遅れてしまったり生育不良が生じたりして収量や品質の低下につながりますので注意が必要です。

排水対策は地表と地下、両方に工夫が必要です。畝立てや田面・耕盤を均すこととともに

  • 明きょ
  • 暗きょ
  • 補助暗きょ

等の施工を組み合わせて策を練ります。

湿害に弱い野菜を栽培するにあたり、明きょの施工はとても重要です。

雨が降った後などの排水量は、地下排水よりも地表排水の方が多いです。畦畔に沿って明きょを掘ることで、速やかに地表の水を取り除くことができます。排水性が悪いほ場の場合は、ほ場周辺を囲うように掘るだけでなく、ほ場内にも一定の間隔で施工するとより効果的です。

一般社団法人 全国農業改良普及支援協会と株式会社クボタが運営する情報サイト「みんなの農業広場」には、地表排水と地下排水の方法が掲載されています。そこには“地下排水が難しい場合、明渠の施工のみでも十分な排水効果が得られた事例もあります。”ともありました。

地表排水と地下排水|機械編|農作業便利帖|みんなの農業広場

(↑)明瞭な説明と写真が掲載されているので、排水対策に悩まされている人はぜひ一度ご覧ください。

暗きょ排水は“地表残留水や地下水位の低下を図るために、地下に連続した空間を設けて余分な水を効果的に排除するもの(引用元:奈良県農林部農村振興課『暗渠排水についての豆知識Vol.1(平成26年2月)』)”であり、暗きょの施工することで地下水位が低下します。地下水位が低くなることは、作物の生長には重要です。

昭和54年に農林水産省が行った試験によると、野菜が酸素を根に供給するためには土壌の空気率は20%以上必要とあります。この試験では土壌の空気率を測定した地点から地下水位までの深さの関係を調べており、その結果、地下水位として必要な深さは

埴壌土※  20cm(A:作土の深さ)+40cm(B:地下水位までの深さ)=60cm
壌土※ 20cm(A)+30cm(B)=50cm
砂壌土※ 20cm(A)+およそ20cm(B)=およそ40cm

とあります。もし暗きょを施工しても地下水位がこれより高い場合には、高畦にして土壌の空気率20%を確保する方法が挙げられています。

参考文献
奈良県農林部農村振興課『暗渠排水についての豆知識Vol.1(平成26年2月)』
水田裏作野菜の栽培技術 – 千葉県

※土性区分について
土づくりに役立つ基礎知識「土性区分」について|農業メディア|Think and Grow ricci

先で紹介した「みんなの農業広場」に掲載されている「水田を利用した野菜づくり」のページには、「具体的な排水対策」という項目で、ほ場にどのような排水対策が必要かを知るのに役立つフローチャートが掲載されています。

水田を利用した野菜づくり|機械編|農作業便利帖|みんなの農業広場

(↑)こちらも合わせてチェックしてみてください。

参考文献(補足)
補助暗きょについて→26.補助暗渠の種類と施工 – 農林水産省

全般カテゴリの最新記事