本記事では、稲作後などの水田を利用した野菜づくりについてご紹介していきます。具体的な野菜づくりのノウハウや事例などは後編でご紹介します。
水田を利用した野菜づくりの背景
稲作後の水田を活用した野菜栽培は2つの観点、1つ目は米生産、2つ目は野菜の需要アップの観点から注目が集まっています。
近年、米の価格の低下が続いています。2021年2月14日の時事ドットコムの記事によると、2021年度産米の価格が前年度に続き下落しそうだ、とあります。日本政府が2018年度米から生産調整(減反)を廃止したことで、農家は自由に生産できるようになりました。しかし消費者の米離れや新型コロナウイルス感染拡大の影響による飲食店などでの需要の急激な減少によって、前年度同様、米が余る見通しになっています。
米の価格の低下は、消費者には嬉しい知らせですが、生産者にとっては経営の安定から遠ざかる案件です。そのため水田を年間を通して活用し、経営の安定化をはかる方法が必要とされています。
そこで、登場するのが野菜栽培です。米とは対照的に、近年、野菜の加工・業務用の需要は増加傾向にあります。また消費者の国産野菜へのニーズが高い一方で、加工・業務用野菜は約3割が輸入品です。そのことから、加工・業務用野菜の国産供給が求められています。
水田を利用した野菜栽培は、これら2つの異なる課題を解決する手立てになると考えられています。
水田を利用した野菜づくり
水田裏作としておすすめされている野菜を以下に記載します。
- キャベツ
- ブロッコリー
- ニンジン
- エダマメ
- タマネギ
- サトイモ
- ジャガイモなど
稲作後の水田を利用する場合は、野菜の収穫は秋から冬にかけて行われます。
<レタスやブロッコリーなど育苗する野菜の場合>
- 播種 8月中旬〜9月上旬
- 定植 9月上旬〜9月下旬
- 収穫 11月〜
ただ、この日程で行う場合、
- 定植時期と稲刈り作業の時期が重なること
- 長雨や台風などの影響による作業の遅れや生育不良
- 秋から冬に低温や湿害の影響による作業の遅れや生育不良
に注意しなければなりません。
また水田利用における最大の課題に「排水性」が挙げられます。
イネ科の植物は、地上から根に酸素を供給する「通気組織」を形成します。コムギやトウモロコシなどは、排水性が良く、土壌中に酸素が十分にある環境では通気組織をほとんど形成しません。一方、水稲は常に通気組織を形成しています。そのため水稲は土壌の冠水に即座に応じることができますが、コムギやトウモロコシは通気組織を誘導する前に酸素欠乏による害を受けてしまいます。
そして野菜はこれらのような通気組織がないため、圃場が冠水状態になると酸素欠乏による害をまともに受けます。そのため水田の排水が悪いと、作業の遅れや生育不良につながってしまいます。
収穫を安定させる場合には、できるだけ水はけの良い圃場を選ぶこと、また水はけをよりよくするために畦畔に沿って排水溝を堀る(明きょ)などして、排水をよくする施工を行う必要があります。
参考文献