日本の農業は、農業従事者の高齢化による後継者不足、耕作放棄地の増加などの問題を抱えています。とはいえ、若い世代の新規農業参入者は増加傾向にあります。そこで日本政府は次世代を担う若い農業従事者の育成・確保のために、さまざまな取り組みを行なっています。その中のひとつが農地の集積・集約化です。日本の農業を持続的に発展させるため、効率的で安定的な農業経営を目指し、大規模農業を推進しています。
しかし日本政府が推進する大規模農業には、大規模農業ならではの問題点があります。本記事では世界が直面する大規模農業の問題点と対策について紹介していきます。
大規模農業への施策
日本政府が推進する大規模農業。若い農業従事者が増加傾向にあるとはいえ、全国的に農業の担い手の減少は進んでいます。農業を持続的に発展させるため、農地利用の担い手への集積・集約化が重要だと考えている日本政府は、農地中間管理機構を創設しています。農地中間管理機構は、耕作放棄地となってしまった農地など、農地として活用されていない農地を借り受けて再生・整備するだけでなく、経営規模を拡大しようとする農業者に貸し出します。活用されていない農地と、経営規模を広げようとする精力的な農業の担い手を結びつける中間的受皿のような存在です。この組織が創設された理由も、農地面積を現状の5割から8割に引き上げるという目標達成です。大規模農業への施策は進んでいます。
大規模農業の問題点
しかし大規模農業には、
- 生活インフラの低下
- 公共の利益
などに悪影響を与える可能性が高いと指摘されています。
大規模農業のイメージが強いアメリカには「ゴールドシュミット仮説」という仮説があります。この仮説は
「大規模農業の割合が農村地域内で増えると地域共同体の生活や文化的な質が低下する」
というものです。
アメリカでは、農業の大規模化が農村地域に与える影響について研究され続けてきました。そして農業の大規模化が進む地域において、病院や教育施設等の生活インフラの低下が顕著に現れているといいます。このような研究の背景には「小規模農家が建国の中心として位置づけられている」「小規模農家がアメリカ市民の象徴的存在だ」と考える思いや文化が影響しています。
大規模農業は効率的ではない?
単に大規模化するだけでは生産効率は上がりません。
例えばアメリカでは、大規模農業ではあるもののまとまった農地が取得できず、耕作地が分散している人もいます。耕作地が分散してしまっては、農作業を効率よく行うことはできません。農業機材を利用するにしても、別の農地に機材を運ぶだけで手間がかかります。農地への移動だけでも手間です。日本では「農地の集積化」を進めているので、耕作地が分散する「大規模農業」の可能性は低いと思いますが、このような例を知ると「大規模農業=効率的な農業」とは一概に言えない、ということがわかります。
また「歩留まりを考えなければ失敗する」とも言われています。大量生産は効率のよい生産方法ですが、農作物の品質の低下により出荷歩留まりが落ちてしまっては、安定的な農業にはつながりません。「利益を上げるために大規模化する」という考えは危ういのです。手間とコストがかかることが考えられますが、大量生産に重きを置くよりも、生産管理に力を入れ、出荷歩留まりを意識したほうが利益は得られます。
単に農業を大規模化するだけでは、日本の農業が目標とする効率的で安定的な農業経営は叶えられません。
大規模農業の今後
効率的で安定的な農業経営を目指すなら、大規模農業はもってこいの形態かもしれません。大規模農業の取り組み事例として、大規模稲作に取り組む株式会社ヤマザキライスについて紹介します。稲作単作で80haの栽培を営むヤマザキライスは、80haの規模を田植え機とトラクター各1台で作業しており、低コスト化に取り組んでいます。また消費者への直接販売をやめ、業務用の生産を行なっています。省力化にも取り組んでおり、販売は商社に任せ、生産に徹することで「効率的で安定的な農業経営」を叶えています。
しかし、日本の農業を持続的に発展させるのであれば、「地域農業を維持する」ことへの問題提起も必要なのではないでしょうか。農村や農業用水等の維持管理ができる”多様な”担い手の育成・確保には、大規模農業は少々向いていないかもしれません。
日本政府が推進する農業の大規模化は、耕作放棄地等の再生・整備や経営規模拡大を目指す農業者を結びつけるという点では魅力的ですが、「地域農業を維持する」という観点からはまた別の施策が必要とされるのではないでしょうか。
参考文献
- 農地の集積・集約化と担い手の動向
- (1)農業構造の変化 農林水産省
- 農業の大規模化・企業化は農村に何をもたらすのか? 海外の事例から農業改革を考える
- 森田三郎「農園の大規模化は, 地域生活を豊かにするのか」『甲南大学紀要』164巻,2014年
- 日本と同じ?米国の大規模農業は効率的ではなかった