農業に限った話ではありませんが、収入をアップさせるためには工夫が必要です。農業経営においては、収入をアップさせる主な方法に商品作物の付加価値向上と生産コストの削減が挙げられます。
本記事では商品作物の付加価値向上に着目し、付加価値向上のために取り組みたい3つのことについてご紹介していきます。
付加価値向上のために取り組みたい3つのこと
付加価値向上のために重要な取り組みには
- ブランド化(他との差別化)
- 需要動向に対応する
- 新たな需要を開拓する
の3つが挙げられます。
ブランド化(他との差別化)
「ブランド化」は外せないキーワードといえます。ブランド化の方法には、他の商品との差別化をはかることや消費者の信頼を得ることなどが挙げられます。
もう一歩進んだ差別化の工夫を
新井毅『稼げる農業経営のススメー地方創生としての農政のしくみと未来』(築地書館、2021年)(以下、『稼げる農業経営のススメ』)にはブランド化の工夫によって付加価値を向上させた事例が紹介されています。それらの事例には、ただ差別化をはかるだけではなく、一歩進んだ工夫がなされていました。
たとえば、地域農産物のブランド化を進めた有田みかん(和歌山県)の事例。日本では2014年から地理的表示(GI)保護制度が導入されています。
地域には、伝統的な生産方法や気候・風土・土壌などの生産地等の特性が、品質等の特性に結びついている産品が多く存在しています。これらの産品の名称(地理的表示)を知的財産として登録し、保護する制度が「地理的表示保護制度」です。
代表的な登録産品には「夕張メロン」や「下関ふく」「近江牛」「越前がに」などが挙げられます。農林水産省はこの制度の導入を通じて、地域農産物のブランド化を後押ししていますが、単価の向上につなげるには、もうひと工夫必要です。
『稼げる農業経営のススメ』にて取り上げられていた有田みかんは、地理的表示保護制度の登録産品には含まれていませんが、2006年に地域団体商標※を取得しています。
※
地域の産品等について、事業者の信用の維持を図り、「地域ブランド」の保護による地域経済の活性化を目的として2006年4月1日に導入されました。「地域ブランド」として用いられることが多い地域の名称及び商品(サービス)の名称等からなる文字商標について、登録要件を緩和する制度です。
それでも単価が低い傾向にあり、農家が県や市と協力して分析したところ、品質等級はつけられていたものの、味のいいみかんも甘みの少ないみかんも「有田みかん」として出荷されていたことがわかりました。
そこで有田市は、特に高品質な有田みかんを公的機関が認定・管理する原産地呼称管理制度『有田Quality』を立ち上げ、高品質として管理されているものとそうでないものは名称も販売戦略も分けることにしました。その結果『有田Quality』品の単価は向上し、その上、みかん全体の平均単価の向上にもつながりました。
パッケージデザインの重要性
ブランド化において、意外と外せないのがパッケージデザインによる高級イメージの確保です。
パッケージデザインは消費者の製品購買に影響を及ぼします。製品リニューアルにおける内容ではありますが河塚悠『製品リニューアルにおけるパッケージ・デザインの変更の効果― 変更するデザイン要素によって購買への効果は異なるのか ―』(マーケティングジャーナル2019 年 38 巻 3 号 p. 95-110、2019年)によると
- 中身の改良に伴うパッケージの「ラベルデザインの変更」
- 中身の改良に伴うパッケージの「ラベルデザインとボトル形状の変更」
- 中味の増量に伴う「ラベルデザインとボトル形状の変更」
が行われた際、1.はリニューアル後の製品購買の確率を上昇させたのに対し、2.は購買確率を低下させました。
消費者のライフスタイル別に見ると、1.は製品価格と品質のバランスを考える、詳細な製品情報を収集・処理して購買を決める価値観を持つ消費者の購買確率を上昇させ、2.は低下させています。一方、新製品や新サービスを積極的に導入する価値観を持つ消費者の場合、ラベルデザインのみの変更では、リニューアル前後で購買確率は変わっていませんが、「ラベルデザインとボトル形状の変更」がなされるとリニューアル前より購買するようになったともあります。
上記論文では、“パッケージの形状は消費者の購買意思決定を大きく変えるデザイン要素であることが予想され、形状の変化の有無が消費者のリニューアル後の製品の購買、非購買を決定づけることが推察できる”とあります。
『稼げる農業経営のススメ』には、自社のきのこを具材に使った即席にゅうめん「養々麺」を開発・販売する株式会社雲仙きのこ本舗の事例が紹介されていますが、雲仙きのこ本舗はパッケージデザインの作成をプロのデザイナーに依頼し、その後の製品群もデザインを統一することで商品イメージの確立に成功しています。
日本の内閣府に設置されている「重要政策に関する会議」の一つ「経済財政諮問会議」の資料『個性を活かした地域戦略の取組(事例集)』の中にも、高知県馬路村農業協同組合による「ゆずで村おこし」プロジェクトの概要にパッケージデザインの関わりが記されています。
デザイナーとの出会いとパッケージデザインの試行錯誤、環境に配慮したギフト商品の開発、同封メッセージの工夫など地道な取組を続ける中で、「ゆずドリンク」、「ギフト商品」などがヒット。
需要動向に対応する
コロナ禍で需要の動向が急激に変化しました。収入アップというよりは、需要の変化により収入が減少するのを防ぐ方法ともいえますが、複数の販路を持つことは需要の変化によるリスク軽減につながります。
たとえば商品産物の売上を伸ばすために、初期加工(カット野菜など)を行い、カット野菜を求める飲食店などに出荷するなどして取引先を広げるといった方法が挙げられます。
もちろん自ら観光農園や飲食業・宿泊業を営むことも、需要動向に対応する方法の一つです。
また付加価値向上において、消費者の声を聞き、消費者に情報を伝えることも重要なのですが、そんなときに農業の生産者と消費者をつなぐサービスが役立ちます。産直通販サイト「食べチョク」や「ポケットマルシェ」などを利用すると、顧客の声を直接聞くことができます。これらのサイトの活用は、販路の拡大につながるだけでなく、需要動向の把握にも活用できます。
新たな需要を開拓する
昨今、小麦の価格高騰を受け、米粉や米粉を利用した商品が注目を集めています。
小麦など原材料価格高騰で「コメ」に注目 東京都が米粉商品をPR | NHK
農業経営の収入アップや付加価値向上の観点から進展したわけではないと思いますが、これまでなかった需要を創り出すことも、付加価値向上には重要です。
コメであれば、稲作から発展して米粉を自社生産したり、生産した米粉を利用したパンや麺の開発・販売に発展させたり、といった事例が挙げられます。
米粉の需要の高まりから、米麺に利用されるインディカ米の生産を始めた企業もあります。
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また有機・無添加食品の通信販売会社であるオイシックス・ラ・大地株式会社は食材とレシピが入った「ミールキット」を開発し、新たな市場を創り出しました。ミールキットは2013年から販売されていますが、共働き世代の増加やコロナ禍により自炊の機会が増え、「時短」を実現しながら料理の満足感も得られるミールキットのニーズの高まりから、ミールキットが届く定期宅配コースの会員数は増加しています。
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参考文献
- 新井毅『稼げる農業経営のススメー地方創生としての農政のしくみと未来』(築地書館、2021年)
- 地理的表示(GI)保護制度:農林水産省
- 登録産品一覧:農林水産省
- 地域団体商標制度とは | 経済産業省 特許庁
- 有田みかんについて – JAありだ
- 有田市を知ろう!
- 製品リニューアルにおけるパッケージ・デザインの変更の効果
- 個性を活かした地域戦略の取組 (事例集)