生産性の向上や収入をアップさせるためには工夫が必要です。本記事では農業経営においてコストを削減させるために取り組みたい3つのことについて紹介していきます。
コスト削減に取り組む前に
まずやっておきたいのが、経営のコスト構造の把握です。コスト削減による生産性向上を図りたいのであれば、どのコストを削減するかを明確にする必要があります。
日本政策金融公庫は経営部門別の決算動向の調査結果を毎年公表しています。調査結果から個人経営の営業費用に占める割合が大きい費目を知ることができます。なお営業費用の費目は材料費(種苗や肥料、農薬や諸材料にかかる費用)、労務費・人件費、燃料動力費、農地等の賃借料・リース料、機械設備等の減価償却費、その他費用となっています。
個人経営の稲作(都府県、令和2年)で営業費用に占める割合が大きい順に費目を並べてみると(その他費用の23%を除く)
- 材料費 33%
- 減価償却費 21%
- 賃借料・リース料 10%
- 燃料動力費 6%
- 労務費・人件費 6%
となっています。
個人経営の露地野菜部門、施設園芸部門も見てみます。露地野菜(都府県、令和2年)の場合には(上記同様、その他費用は除く。その他費用は33%)
- 材料費 35%
- 労務費・人件費 14%
- 減価償却費 11%
- 燃料動力費 4%
- 賃借料・リース料 3%
施設園芸の場合には(その他費用は除く。その他費用は34%)
- 材料費 25%
- 労務費・人件費 16%
- 減価償却費 12%
- 燃料動力費 10%
- 賃借料・リース料 3%
となっています。
経営部門によって、かかるコストの割合に違いがあるのがわかります。
コスト削減のために取り組みたい4つのこと
どの部門でも営業費用に占める割合が比較的多かった
- 材料費
- 減価償却費
- 労務費・人件費
- 燃料動力費
を縮減していくための取り組みについて紹介していきます。
材料費の削減
材料費のコスト削減における基本的な考え方には
- 購入単価を引き下げること
- 使用数量を削減すること
が挙げられます。
具体的には、資材費の負担縮減のため、予約や大口注文、共同購入などを活用すること、土壌診断を行い、適正量を算出して投入したり、 稲ワラや家畜ふんだけでつくる堆きゅう肥を有効活用したりすることなどが挙げられます。
近年、単に肥料や農薬を販売するだけでなく、栽培技術をパッケージで提供する資材メーカーが登場しています。たとえば川合肥料株式会社はミニトマト専用培養土を販売するだけでなく、その専用土が詰まった袋の中にトマトの苗を直接植えて栽培する手法を提供していました(川合肥料株式会社の公式サイトによると、栽培用培土に関する事業は継続するものの、2022年6月30日に上記ミニトマトに関連する事業は他社が引き継ぐことになったとあります※)
※うまトマト事業撤退お知らせ|商品情報|最新情報|創業明治22年 – 昔の力 今の知恵 – 川合肥料株式会社(イノチオグループ)
上記のような提案を踏まえ、必要となる資材や栽培技術を自身の経営と照らして選択することも必要です。
なお、出荷経費の削減方法には、出荷資材の削減なら通いコンテナの導入が、出荷手数料の削減なら、直売等への取り組みが方法として挙げられます。
減価償却費の削減
数百万円から1,000万円以上する農業機械が、年間1、2週間程度しか稼働していない場合、規模の小さな経営体ほど減価償却費に圧迫されてしまいます。
農機を最大限有効に活用する以外には、中古やリースの活用が、コスト削減の方法として挙げられます。
中古農機を購入する場合には、中古農機を取り扱う専門店での購入が安心です。もちろん専門店以外のリサイクルショップやオークション、フリマアプリなどでも扱いはありますが、状態のいいものを購入したい場合や不明点を相談したいという場合には、専門店が利用しやすいはずです。また販売店がメーカーの代理店であれば、純正部品をメーカーから取り寄せたり、メーカーに直接不明点等を問い合わせることも可能になるので、初めて中古農機を購入する場合には、そのような店舗での購入をおすすめします。
労務費・人件費の削減
機械化による労働時間の削減や栽培方式を変更するなどの方法が挙げられます。
規模拡大も労働力や機械装備に見合う適正なものであれば、コスト削減につながります。人手不足対策としてのロボット化も労務費・人件費を削減する方法として挙げられます。昨今、農薬散布用のドローンや収穫ロボット、無人走行のコンバインや田植機は珍しい存在ではなくなりつつあります。ただし、無人走行コンバインなど大型の機械の能力を最大限活かすためには100ha単位の集約・超大区画な圃場整備が必要とされています。
小規模〜中規模の農業経営体でも取り入れやすいのは、IT管理ツールなどを導入し、作業工程を管理・改善することかと思います。
2014年から「豊作計画」と呼ばれるクラウドサービスがスタートしています。トヨタ自動車株式会社が開発・導入した農業IT管理ツールで、生産の効率や安全性を見直すトヨタ生産方式の考え方が織り込まれています。元々は米作向けのサービスでしたが、農業経営体からの要請に応え、露地栽培やハウス栽培等でも適用できるよう、適応品目が野菜・果樹・畜産などにも拡大されています。
燃料動力費の削減
燃油価格は平成20年に高騰して以降、下落・高騰と大きな変動を繰り返しています。施設園芸においては暖房等重油の経営費に占める割合がどうしても大きくなるため、省エネ対策技術の検討が常に必要になるといえます。
冒頭で述べたように、まずは無駄なエネルギー使用がないかを確認することが重要です。そのうえで、各々の省エネ技術の特徴や効果について確認し、経営に応じた技術を選び、導入していきます。
基本的な対策には
- 設備を定期的に点検、清掃する
- 燃油以外のエネルギー源(太陽熱や廃熱など)を利用する機器を導入する
- 保温フィルムの活用など機器「以外」のアイテムを導入する
などが挙げられます。
関連記事:いま一度、基本的な対策で省エネルギー化(節油)を図る!
参考文献
- 新井毅『稼げる農業経営のススメー地方創生としての農政のしくみと未来』(築地書館、2021年)
- 農業経営動向分析結果
- 事業内容|創業明治22年-昔の力 今の知恵-川合肥料株式会社(イノチオグループ)
- 中古農機具の売買は意外とハードルが低い? 賢く買い、上手に売るコツを教えます
- トヨタ自動車、農業IT管理ツール「豊作計画」を刷新 | コーポレート | グローバルニュースルーム
- 生産資材費高騰に対する 技術支援マニュアル