近年、台風や豪雨などの気象災害や新型コロナウイルスの感染拡大など、不測の事態ともいえる出来事が発生しています。元々農業は天候に左右されやすく、自然災害の発生により収量が減少したり市場価格が下落したりといったリスクは発生しやすいといえます。
そこで農業者は自らリスクに備える必要が生じます。そんな時、心強い味方になってくれるのが「保険」です。保険は日常生活で起こる様々なリスクに備える制度です。
本記事では「今更聞けない農業保険」と題し、農業者を守る代表的な保険制度である収入保険と農業共済についてご紹介していきます。
農業保険(収入保険・農業共済)
収入保険と農業共済は、農林水産省が用意する公的な保険制度です。国が保険料の一部を補助します。
収入保険
収入保険はその名の通り、収入減少を補償する保険制度です。
保険期間※の収入(農産物の販売収入)が基準収入※2の9割を下回ったとき、下回った額の9割を上限に保険金が補てんされます。
※ 税の収入算定期間と同じで、個人の場合は1月〜12月、法人の場合は事業年度の1年間を指します。
※2 過去5年間の平均収入が基本となり、保険期間の営農計画も考慮して設定します。
収入保険の特徴は、
- 原則全ての農産物が対象であること
- “農業者の経営努力では避けられない収入減少”が補償の対象となる
という点です。
上記補償内容にある“収入(農産物の販売収入)”には精米や仕上茶といった簡易な加工品の販売収入も含まれています。ただし、肉用牛、肉用子牛、肉豚、鶏卵は対象外となります。
“農業者の経営努力では避けられない”事例には、
- 自然災害等による減収
- 市場価格の下落
- 取引先の倒産
- 為替の変動
- 病気やけがで収穫できなくなった
- 倉庫が浸水被害にあった
- 運搬中に事故にあった
- 盗難にあった
などが挙げられます。
青色申告を行っている人が対象ですが、農業生産、経営で起こりうる様々なリスクをカバーしたい人はこの「収入保険」がおすすめです。
農業共済
農業共済は、自然災害などで生じた作物・家畜・園芸施設への損害・損失を補償する制度です。
先で紹介した収入保険は“原則全ての農産物が対象”ですが、農業共済の場合は品目ごとに農業者の意思で加入することになります(任意加入制)。事業種類ごとに対象品目等は異なります(↓)。
対象品目等 | |
農作物共済 | 水稲、陸稲、麦 |
果樹共済 | うんしゅうみかん、りんご、なし、ぶどう、うめ、もも、かき 、おうとう、いよかん、キウイフルーツ、なつみかん、すもも、くり、びわ、パインアップル、指定かんきつ |
畑作物共済 | てん菜、大豆、ばれいしょ、たまねぎ、さとうきび、小豆、そば、いんげん、かぼちゃ、スイートコーン、茶、ホップ、蚕繭 |
家畜共済 | 牛、豚、馬
<詳細> ・成牛(原則として出生後第6月以降のもの) |
園芸施設共済 | 特定園芸施設(ビニールハウス等) |
引用元:農業共済制度の概要
事業種類ごとの補償対象となる事故や補償期間、補てんの内容をまとめます(↓)。
補てん内容 | 補償対象となる事故 | 補償期間 | ||
農作物共済 | 自然災害により、収穫量が平年に比べ一定割合以上減少した →補償対象とする減収量に対して共済金が支払われる。 |
風水害、干害、冷害、雪害、その他気象上の原因(地震及び噴火を含む)による災害、火災、病虫害及び鳥獣害 | 移植期から収穫期
(直播の場合は発芽期から収穫期) |
|
果樹共済 | 収穫共済の場合 | 風水害、干害、寒害、雪害、その他気象上の原因(地震及び噴火を含む。)による災害、火災、病虫害、鳥獣害 | 花芽の形成期(春枝の伸長停止期)から果実の収穫期 | |
樹体共済の場合
(樹体に損害を受けた場合に補償する) |
気象災害等による樹体の枯死、流出、滅失、埋没、損傷による損害 | 農業共済組合が定める日から1年間 | ||
畑作物共済 | 風水害、干害、冷害、凍霜害、ひょう害、その他気象上の原因(地震及び噴火を含む。)による災害、火災、病虫害及び鳥獣害 | 発芽期から収穫期
(移植をする場合は移植期から収穫期) |
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家畜共済 | 死亡廃用共済 | 家畜がと畜されず、死亡や廃用(家畜としての使用価値を失ったもの)となった →家畜1頭ごとの資産価値を補てんする。 |
共済掛金の支払日の翌日から1年間 | |
疾病傷害共済 | 家畜が疾病・傷害を負った場合 →診療費を補てんする。※ ※逆選択(事故が発生しそうな家畜を選んで加入すること)を防止するため、家畜の種類ごとに全頭加入が基本。 |
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園芸施設共済 | 園芸施設(ビニールハウスやガラス温室など)が自然災害による損害を受けた →被害の程度に応じて共済金が支払われる。 |
風水害、ひょう害、雪害、その他気象上の原因(地震及び噴火を含む)による災害、火災、破裂、爆発、航空機の墜落及び接触、航空機からの物体の落下、車両及びその積載物の衝突及び接触、病虫害並びに鳥獣害 | 共済掛金の支払日の翌日から1年間 施設本体の設置期間のうち、被覆していない期間も対象となる。 |
参照元:農業共済に加入しましょう!
全ての農業者が対象で、自然災害によるリスクをカバーしたい場合は「農業共済」がおすすめです。
保険に加入する際は……
2022年2月17日の日本農業新聞に、収入保険の加入者数が増加しているという記事が掲載されました。
その要因として新型コロナウイルスの影響が挙げられています。先でも紹介した通り、収入保険は農作物共済と違い、原則として全ての農産物が対象品目です。その上、新型コロナウイルスの影響による減収は、まさに“農業者の経営努力では避けられない収入減少”といえます。このことが農業者の加入意識を高めた、とされています。
農業共済が任意加入であることから無保険の農業者も少なくないようですが、あらゆる事態に備えられるという点で収入保険は今後も注目される保険制度となるでしょう。
とはいえ、保険制度に加入するということは掛金が発生するということ。業態によっては月々発生する掛金が高額になってしまう場合もあるので、自身の農業経営に最適な保険かどうか、保険の加入がかえって農業経営や生活にかかる費用を圧迫してしまわないか、慎重に検討する必要があります。
参考文献