農業を営んでいる、または農業所得を得ているのであれば確定申告を行う必要があります。
農業収入に限った話ではありませんが、確定申告には白色申告と青色申告の2種類あります。2017年6月に農業・酪農求人サイト「あぐりナビ」が全国の男女(年齢不問)78名に行ったアンケート調査によると、確定申告を白色申告で行っているという回答は36、青色申告で行っているという回答は42となっています。
白色申告は簡便で申告しやすい代わりに節税効果がありません。一方、青色申告は申告に手間がかかりますが、節税効果があります。上記アンケートで青色申告と答えた人はこのような回答をしています。
白色よりも手間がかかるが、家賃や光熱費を経費として計上できたり、家族の給与を課税対象額から差し引けたりするので。(40代/女性/正社員)
青色申告で最も大きなメリットは、農業所得を生み出すのに必要な「経費」を計上することで課税対象となる所得額を削減することができる点にあります。
必要経費とは
ある所得を生み出すのに必要な経費。収入金額からこれを控除した残額が所得税の課税標準となる。所得税法上、不動産・事業・山林・雑の各所得につき、売上原価・販売費・人件費・管理費・減価償却費等が必要経費とされる。
出典元:株式会社平凡社 百科事典マイペディア
農作物を販売して得た収入は事業所得扱いになります。青色申告を行う際、農業所得を生み出すのに必要な「経費」を計上すれば、節税することができます。
経費について知っておきたいこと
経費の線引きは決して簡単なものではありません。農業で認められる代表的な必要経費については後述しますが、「これは経費になる?」とインターネット上で検索すると、「経費になる・ならない」どちらの情報も見ることになるでしょう。経費に関する情報はあくまで一般論であり、税務調査で「これは経費になる」と認められたものではありません。個人の事情に当てはまるかどうかで、同じ出費内容であっても経費になる場合とならない場合があります。
税理士の大河内薫氏は自身の書籍やインタビュー記事にて「売上につながるものを経費として計上することはまっとうな申告です」と述べています。経費について、仕事に必要なものであると説明できるのであれば経費として計上してよいといえます。
大前提として、脱税は違法行為です。
青色申告時には、「仕事を進める上で必要である」と説明できるものを経費として計上し、抜け漏れのない申告を行いましょう。
農業で認められる必要経費にはどんなものがあるか
農業を行う上で「必要である」と堂々と説明できると思しき必要経費には以下のものがあげられます。
- 種苗費
種、苗等の購入費用 - 肥料費
肥料等の購入費用 - 飼料費
飼料の購入費用
(牛などを飼育していない場合には経費として認められません) - 農具費
バケツやはさみ、鎌や育苗箱、コンテナなどの農機具購入費用
(取得価格が10万円未満または使用可能期限が1年未満「以外」の農機具は、農具費ではなく「減価償却費」の対象となります) - 農薬衛生費
農薬等の購入費用 - 諸材料費
ビニールやマルチ、針金やテープなど消耗品の購入費用 - 修繕費
農機具、農業用車両、農業用小屋などの農業用資産の修理費用
(農業用資産の価値を高めたり、耐久性を増したりといった支出は「減価償却費」の対象となります) - 動力光熱費
営農に必要な電気代、水道代、燃油代など、農業に関する光熱費
(後述するQ&Aでも紹介しますが、家事用と事業用の経費を明確に按分できる根拠がない場合には農業経費として認められません) - 作業用衣料費
長靴、帽子、手袋、作業着など、営農に必要な材料費 - 荷造運賃手数料
市場手数料やJA手数料、検査手数料や出荷運賃など販売に係る費用 - 農業共済金
水稲、麦、果樹、家畜等の共済掛け金、農業用自動車の任意保険料、価格安定制度の掛け金など
(生命保険料や住宅の火災保険料などは経費として認められません) - 雑費
農業新聞代や農業に関する図書代、事務用品代など、上記項目に該当しないものの費用
農具費と修繕費の概要で登場した「減価償却費」とは
減価償却費とは
事業用に取得した建物・機械・備品などの固定資産の取得原価を、耐用年数にわたって徐々に費用として計上するために、所定の計算方法によって各会計期間に配分した費用。
出典元:小学館 デジタル大辞泉
という意味です。
耐用年数は固定資産ごとに決められています。たとえば自動車の場合、一般的な新車(普通自動車)であれば法定耐用年数は「6年」です。180万円の自動車を購入したとすると、180万円すべてを経費とするのではなく、180万円を毎年30万円ずつ経費として計上します。
なお、農業用設備の耐用年数は一律で「7年」となりました。トラクターや草刈機など主な農機具の耐用年数は7年です。
減価償却費として計上する農業用機械を新しく購入した場合は、領収書を必ず保管してください。処分や譲渡を行った場合には、機械の種類や譲渡金額を把握しておきましょう。
まだまだある、農業の経費
農業の経費には以下のものもあげられます。
- 雇人費
雇い人に対する労賃や交通費
(労賃は商品券や現物も含みます。家族への支払いは経費として認められません) - 委託費用
耕起、田植、稲刈等の農作業を委託した際の費用 - 租税公課
農業を経営する上で支払った消費税、固定資産税、農業用車両の自動車税、不動産取得税など
(農業用以外の固定資産税、区費、公民館費、健康保険料などは経費として認められません)
もちろん、これ以外にも営農する上で必要だと説明できるものがあれば、経費として計上できます。
滋賀県彦根市が公開している農業所得Q&Aが分かりやすい
滋賀県彦根市が公開するウェブページがわかりやすいのでご紹介します。
たとえば上記「動力光熱費」では“家事用と事業用の経費を明確に按分できる根拠がない場合には農業経費として認められません”と書きましたが、「農業で使っている電気と生活にかかる電気を分けていない。このため、光熱費に計上すべき額がわからない。どうすればよいか。」という問いに、電気代のメーターを分けていない場合に必要経費として計上するための方法が記載されています。
「車庫を農業用倉庫として使用している場合、車庫の維持費が必要経費となるのか」、「農業用倉庫の修理・増築にかかった費用は経費となるのか」といった問いに対する回答が記載されていますので、気になる方はぜひ参考にしてください。
参考文献
大河内薫・若林杏樹『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』(サンクチュアリ出版、2018年)