日本の農業は、農業従事者の高齢化や担い手不足による耕作放棄地の増加など農業経営基盤の弱体化につながるいくつもの課題を抱えています。これらの課題を解決するための方法として、農作業支援策や担い手の育成などといった取り組みが行われています。
そんな中、本記事で着目するのは農業経営の法人化です。農業経営を法人化すると、人材が確保しやすくなったり、融資を受けやすくなったりというメリットがあります。もちろんデメリットもありますが、本記事では法人化することのメリット・デメリット、法人化に至った事例について紹介していきます。
法人化のメリット・デメリット
まず、農業法人とは何でしょうか。
農林水産省のウェブサイトにはこう記されています。
「農業法人」とは、稲作のような土地利用型農業をはじめ、施設園芸、畜産など、農業を営む法人の総称です。組織形態としては、会社法に基づく株式会社や合名会社、農業協同組合法に基づく農事組合法人に大別されます。
また、農業法人が農地を所有するためには、農地法に定める一定の要件を満たす必要があり、その要件を満たした法人を「農地所有適格法人」といいます。
出典元:農業法人について:農林水産省
なお、農業経営の法人化は増加傾向にあります。平成31(2019)年度には、農業法人は2万3,400法人となり、平成22(2010)年度に比べて約4倍となりました。また5年ごとに実施している農林業センサスの間の年次動向を把握するために行われる農業構造動態調査の令和4(2022)年の結果では、全国の法人経営体数は3万2,200経営体となり、前年に比べ1.9%増加しています。
農林水産省のウェブサイトでは経営上のメリットや制度面でのメリットなど、法人経営のメリットが紹介されています。
経営上のメリットには、
- 経営管理能力の向上
- 対外信用力の向上
- 経営発展の可能性の拡大
- 農業従事者の福利厚生面の充実
- 経営継承の円滑化
が挙げられます。
法人化により、財務諸表の作成や社会保険の適用といった事務的、経済的な負担は生じます。しかし法人化によって家計と経営が分離され、複式簿記の導入により企業活動や作業を数値化するマネジメントが充実することで、金融機関や取引先からの信用が増し、資金調達がしやすくなります。家族以外の従業員を雇用する際も、法人化によって社会保険、労働保険が適用されることで、人材も確保しやすくなります。農林水産省が公開するパンフレット「農業経営の法人化のすすめ(個人版)」では、法人化後、社会保険制度が整備されたことで、求人サイトを通じての応募が増加したという事例が紹介されています。
制度面でのメリットも大きいです。たとえば税制においては、
役員報酬を給与所得とすることによる節税
(役員報酬は法人税において損金算入が可能。また、所得税において役員が受け取った報酬は給与所得控除の対象となる。)
欠損金の10年間繰越控除(青色申告をしている個人事業主は3年間)引用元:法人経営のメリット:農林水産省
とあります。また農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)の貸付限度額も、個人の場合は3億円に対し、法人の場合は10億円です。
法人化のきっかけ
最後に法人化の事例についてご紹介します。
露地栽培を行っていたある経営体は、人材確保と農業用ハウスを増設するための資金調達をきっかけに資本金300万円で法人化しました(株式会社を設立)。その結果、農業用ハウスが増設され、法人化前は約2億円だった売上が法人化後5年で3億円に増加しました。また資金調達においては、法人化したことで融資限度額が引き上げられるとともに、実績を積む中で金融機関からの信用力が向上し、地方銀行からも融資を受けられるようになった、とあります。
地域の高齢農家の離農により農地の集積が進んだことや地域の雇用を増やす目的から、資本金300万円で設立された法人では、農作業の受託だけでなく離農による農地の受け皿としても機能しており、法人化前は20haだった農地が法人化後5年で100haに広がっています。法人化したことでイメージが向上し、地域に取り組み内容が浸透したことで、地域雇用も生み出しています。
法人経営に興味のある人は農林水産省のウェブサイトをチェック!
日本政府は「法人経営体数の増加(令和5年までに5万法人)」「40代以下の農業従事者の拡大(令和5年までに40万人)」を目標に掲げています。
また「農業経営・就農サポート推進事業」として、各地域で就農・経営サポートを行う拠点が開設されています。法人化を検討されている方はぜひ以下のページをチェックしてみてください。
参考文献