農業従事者に限った話ではありませんが、商売をする以上、支出を減らすことはとても重要です。利益を増やすだけでなく、商売を円滑に進めるためにも重要であり、コスト削減を目指す人は決して少なくありません。
しかし原油価格の高騰や世界経済の混乱から、農業経営に大きく関わる肥料費や飼料費、生産所在費、燃料費などが値上がり傾向にあるのが現状です。生産に必要なものの値上がりが続けば、農業経営に大きな打撃を与えることは目に見えています。
そこで本記事では生産コストの現状をふまえ、生産費を低減する方法や今後の国の政策について紹介していきます。
生産コストの現状
まずコメを例にあげます。平成20年度1月に農林水産省が発表した「品目別生産コスト縮減戦略」では、コメの生産費は以下のようになっています。
- 生産費 約12万円/10a
- 労働費 全体の約4割
- 賃借料及び料金、農機具費 全体の約3割
- 肥料費、農業薬剤費 全体の13%
作付規模を拡大すると、作業効率を向上させるため労働時間が低減する傾向にあるため、コメの生産にかかる費用のうち、大きな割合を占めているのは農機具費や賃借料及び料金等と言えます。
キャベツの場合、農業経営費に占める割合は全体の約5割を「包装荷造・運搬等料金」「農機具・農用自動車・建物」が占めています。
また夏取りか冬取りかによっても費用が変化します。夏取りの場合、その季節柄、病害虫防除に費用をかける必要があり、「包装荷造・運搬等料金」の次に「農業薬剤」が費用の多くを占めます。冬取りの場合は「農業薬剤」から「肥料」に変化します。
生産コストの低減例には、
- 包装資材の低減
- 農機具の効率的活用
- 物理的な病害虫防除の活用(フェロモントラップなど)
- 堆肥の自家生産
があげられます。
トマトの場合、施設栽培や生育特徴から「賃借料・料金」「農用建物費」「肥料費」が全体の約4割を占めています。そのため、生産コストの低減例には、
- 低コストハウスの導入
- 種苗や肥料等の共同購入
- 共同利用施設を合理化する
などがあげられます。
生産費を低減するために
生産費を低減するコツ
生産費を低減するためのコツはいくつもあります。栽培する農作物の生育特性や農地の特性に合わせて、できるものからコスト削減を取り組むことをおすすめします。コスト低減例を以下にいくつか紹介します。
- 土壌診断を行い、それに基づいた適正施肥を心がける
- 低価格な肥料や農薬を選択する
- 病害虫の特性を知り、適期に防除を行う
- 病害虫抵抗性品種を導入する
- 農業用ハウスや農業機械の省エネを意識する
- 経営規模に応じて農業機械を選択する
- 中古の農業機械を選択する
- 包装用資材は低価格なものを導入する
- 出荷用ダンボールは茶色箱を選ぶ
(染色されていないものを選ぶことでコスト削減)
コスト削減事例
先の「生産コストの現状」で紹介したコメとキャベツのコスト削減事例についても紹介します。
コメの場合、「品目別生産コスト縮減戦略」にて3つの事例が紹介されています。
- 直播栽培や複数品種を組み合わせ、作期を分散させて規模拡大を図る
- 稼働面積を増加させることによる農機具費と賃借料及び料金の低減
- 省力的な栽培管理方法の導入
特に1.の直播栽培や3.の省力的な栽培管理は、生産効率の向上にもつながるでしょう。直播栽培を行うことで、育苗や田植えなどの作業を省力化することができます。また作期の分散を図ることで、規模を拡大します。労力を減らしながらも生産量を増やすことができるのです。省力的な栽培管理方法の具体的な案には「プール育苗や疎植栽培」「病害虫抵抗性品種の導入」があげられています。
キャベツの場合、生産効率を向上させるために機械化体系の導入が推進されています。キャベツ農家の事例では、銚子地域のキャベツ農家が半自動移植機を導入することで省力化を実現している例があげられています。また冒頭でもあげた肥料費の値上がりの対応策として、キャベツ作付け後の残効肥料の活用法があげられています。キャベツを作付けした後の圃場にトウモロコシを栽培することで、肥料費の低減を実現しています。
IT化によるコスト削減
コスト削減の方法としてITの活用もお勧めです。
日本マイクロソフトが中心となって共同開発されたシステム「ZeRo.agri」は、タブレット操作ひとつでビニールハウスを管理することができます。必要な時に必要な量の培養液供給が行えるシステムにより人件費を削減することができますし、経営者の負担も減らすことができます。データによって栽培が管理されるため、生産効率のアップも期待できます。
「Akisai」は富士通が開発したクラウドサービスです。経営・生産・販売、全ての流れを支援するサービスであり、露地栽培、施設園芸、畜産など、あらゆる形態の農業に役立ちます。データ管理により作業工程が見える化されるのでノウハウ蓄積にもつながります。蓄積されたノウハウを活用することで、異業種から農業に参入した人のサポートにもなります。
農林水産省の来年度予算について
日本政府も、農家の生産費低減を目指しています。
農林水産省は土壌診断の結果をふまえた無駄のない施肥の普及を目指し、”土壌診断に基づく施肥の普及事業”に乗り出しました。
この背景には、JA全農による肥料の集約(窒素、カリウム、リン酸含有率が横並びの化成肥料をはじめ、成分構成が同じか近いものを大幅に集約した)や2018年秋に基準価格から1~3割肥料の価格を引き下げたことがあります。価格が安く、汎用性のある肥料を活かすことで、低コスト施肥体系の普及を目指しているのです。