農林水産省が令和元年8月9日に公表した「平成30年新規就農者調査」によると、新規就農者の数は5万5810人で前年(5万5670人)並みの推移となりました(49歳以下の新規就農者については、平成29年まで4年連続で2万人を超えていたものの、平成30年は1万9290人と前年から7.1%減少しました)。
なお就農形態別で見ると、平成30年は
- 新規自営業者 4万2750人(前年比 3.0%増)
- 新規雇用就農者 9820人(前年比6.7%減)
- 新規参入者 3240人(前年比11.0%減)
となっています(「新規自営業者」等の定義は、平成30年新規就農者調査 農林水産省を参照)。
農業従事者の高齢化が進む中で、新たな担い手として期待される新規就農者ですが、営農を続けられず離農せざる得ない人もいます。離農の理由には本人事情(病気、介護、離婚等)なども挙げられますが、経営困難や低収入など経済的な事情も多く挙げられます。
農業は作物を栽培するだけの生業ではありません。経営者としての資質も必要です。商品価値は市場のニーズや流通量に左右されますから、利益を得るためには、どのような農作物が求められているか、どのように運営してくべきかを考えなければなりません。
そこで本記事では、農業経営で抑えておきたいポイントである「消費者目線」について紹介していきます。
農業経営の成功とは
農業経営の何が「成功」なのかは人それぞれ違うとは思いますが、本記事では売上を確保でき、利益を出し、長期的に経営を続けていけることとします。
先でも述べたように、商品価値は市場のニーズや流通量に左右されます。作りたい農作物で売上を伸ばしていくことを反対はしませんが、「成功」するためには、どのような農作物が求められているかを考え、品目を選ぶ必要があります。
その際、選ぶべき品目には
- 「作りやすい」「売りやすい」品目(市場規模の大きい品目)
- 年間栽培できる品目
- 低投資で始めやすい品目
- 単位面積当たりの売上額が高い品目
などが挙げられますが、農産物を売り込むのであれば「消費者目線」を忘れてはいけません。
おさえておきたい「消費者目線」とは
『農業のマーケティング教科書 食と農のおいしいつなぎかた』の著者、岩崎邦彦氏は
消費者の関心は、農産物そのものではなく、その商品が自分にとって、どのような価値があるのかだ。
引用元:岩崎邦彦, 『農業のマーケティング教科書 食と農のおいしいつなぎかた』6ページ, 2017年11月2日, 日本経済新聞出版社
と述べています。
この本の冒頭、全国の消費者2000人に行った「買い物に関するアンケート」(2017年2月、静岡県立大学経営情報学部岩崎研究所が実施)で、「〇〇の購入に1回あたり△△円まで払うことができる」という問いに、
〇〇の部分 |
値段(平均値) |
トマト |
329円 |
茶葉 |
848円 |
おいしさの感動 |
5292円 |
リラックスしたひと時 |
3943円 |
という回答が得られました。
消費者が価値を感じるのは、農作物や食べ物そのものではなく、それを食べる時間や食事を楽しむこと。
そのため、つくった農作物をただ売るだけではうまくいかないのです。農業経営を成功させるには、品目の選定と同時に、販売する視点を「生産者目線」から「消費者目線」に変え、「消費者がなぜそれを買うのか」を考えてつくるのがポイントになります。
本作には消費者目線に立つさまざまな方法が紹介されていますが、もっとも取り組みやすいと思われるのは「小売店で自分の野菜を自腹で買う」こと。消費者から見た商品の位置付けが理解しやすいからです。
また「生産者目線」になりがちな意識を変えるために、「売る」ではなく「買う」と言い換える方法も紹介されています。これは消費者の「買う」という行為から農作物を見つめ直すことで、生産者目線から脱却する方法です。
もちろん、経営について考えるとき、作りやすさや低投資など生産者側の視点は必要です。ですが、消費者の存在を無視して経営を進めることはできません。「消費者目線」を取り入れることで、今後の農業経営を発展させていきましょう!
参考文献
- 新規就農者調査:農林水産省
- 新規就農者の就農実態に関する調査結果-平成28年度- 一般社団法人全国農業会議所 全国新規就農相談 センター-平成29(2017)年3月-
- 成功する農業! 利益を出す作物の選びかた鉄則5ヶ条 AGRI JOURNAL
- 岩崎邦彦, 『農業のマーケティング教科書 食と農のおいしいつなぎかた』, 2017年11月2日, 日本経済新聞出版社