3月14日・15日にかけて会津若松の東山温泉での「日本農業を憂える会」の宴会の時の話だ。
お酒が体の中を程よく回った時だった。
基盤整備事業とは?
長老のMさんが、土地改良区の理事をやっているHさんに、
「ところで、川西町の基盤整備事業、あれはどうなった?」
と質問した。
Hさんは、次のように概要を説明した。
―この事業は、国の農業競争力強化農地整備事業(中山間地域型)で中間管理機構等による担い手(認定農業者)への農地集積を目的として、全農地面積に占める担い手利用面積割合の目標を80%に設定している。事業規模は、受益面積243ha、総事業費53億7500万円、事業費のうち国が55%、山形県27.5%、川西町10.0%、地元負担が7.5%であるー
この事業を分かりやすく説明すれば、図に示した施工前のA、B、Cのような不定形な3枚の圃場の畔を外し、施工後、1ha・1枚の大区画圃場にすることである。
「農家の負担金はいくらになるの?米価が安いのに負担金を出す農家はいるのか?」
と質問すると、
「施工後の農地が担い手(認定農業者)へ集積し集積面積が80%に達すれば、「促進費」がバックされるので、10aあたり5万円の負担金ですむが、担い手集積が80%に届かなければ最大で10aあたり16万5000円の負担金が発生する」
とH、
認定農業者と爺さん農家
「その負担金が問題なんだよ。1haの大区画圃場になれば認定農業者ではないが農機具をもっている爺さん農家も、俺が作りたいってことになるんだよ」
とM長老。
「なるほど、施工前の三角形の圃場では効率が悪かったのが、施工後、1haに圃場整備されたら、農業機械を保有している爺さん農家も、自分で耕作したいという農家本来の気持ちがあるんだ」
と筆者。
「認定農業者じゃない農家が耕作すると、10aあたり16万もの負担金を払うことになるけど、それでも爺さんたちは耕作したいのか」
「そこが、問題なんだ。現場の農家の感覚じゃ、あいつは認定農業者だから5万なのに、なぜ自分は16万なのかってことになるのさ」
「確かにな、それじゃ、現場は大変だ」
「そのために、国は、農地評価のための農地評価員と農地集約を支援するための農地換地委員を任命したんだ。実は自分は農地換地委員なってしまった」
とH。
「それに加えて、もう1つ問題がある。俺たちの地域では、農地を集約し大規模に耕作している農業法人は儲かっておらず、これらの農業法人は補助金でどうにか経営を維持しているんだ」
とM長老は困った顔をしながら言った。
矛盾だらけの農業政策
「確か、国は、『人・農地など関連施策の見直し』で、農地を将来にわたって持続的に利用すると見込まれる人として、多様な経営体等(継続的に農地利用を行う中小規模の経営体、作業・機械を共同で行う等しつつ農業を副業的に営む半農半Xの経営体など)を、認定農業者等とともに積極的に位置付け、その利用を後押しすることにした・・・ってことは、爺さん農家でもokじゃないの?」
と筆者。
「ところが現実は違うのさ。農地を将来にわたって持続的に利用するってところが問題なんだよ。お上は爺さんたちは持続的に利用しないって判断したのよ。要するに、爺さんどもは米作りをやめて、農地を儲かっていない大規模農業法人に渡せってことなのさ」
とM長老は言った。
「GHQが農村の共産主義化を防ぐために農地改革を実施した結果、小さな田んぼを所有する自作農が増えてしまったのだが、ここに来て、集約化しようと思っても無理だってことさ。言葉は悪いが、爺さん農家がなくなれば、お上の大規模法人化政策が実現する可能性が高まるからさ。つまり、国は自分たちの大規模法人一辺倒の政策の間違いを決して認めないからな」
とH。
それ聞いて、今まで一言も話さなかったSは、
「お上の政策なんてそんなもんよ。今までの政策も現場目線では矛盾だらけで、その矛盾は現場で対応しろってことよ。江戸時代の官僚と今の霞が関と永田町の『上から目線』は、そんなに変わっていないのさ」
と言って、皆の茶碗に、乱暴に酒を注いだのだった。
稲田宗一郎(いなだ そういちろう)