今回は、農林水産省が打ち出した「水田活用の直接支払交付金の厳格化」の話です、コメの転作作物として大豆や麦、飼料作物を栽培する農家に対し、国は10アールあたり年間3万5千円を交付してきた。しかし、今回、国は、「転換作物が固定化している水田の畑地化を促すとともに今後5年間(令和4~令和8)に、1度も、水張りが行われない水田に対しては、令和8年度以降、交付金は出さない」と政策を変更した。
3月に山形県の農家の友人達と関川村にある高瀬温泉に行った
その宿で友人たちと、酒を飲みながら、この政策変更について話をした。僕は、仲間に「5年間に1度、転作している水田に水を張るのか?」と聞いた。
「俺の地域の農家のほとんどは「水を張らない」、つまり、5年間大豆や飼料米を作り続けるか、大豆や飼料米をやめるかってことだ」
「それって、収入が減るだろ。せこい農家がそんなことするのか?」
「せこいから、そうするのさ。奨励金なしで大豆や飼料米を作っても儲からないんだ。下手すりゃ赤字さ。赤字になるのに作る百姓はいないさ」
「それって、畑を水田に戻しコメを作り、翌年、また畑に戻すって、労働と金がかかるってこと」
「さすが、稲田先生はご存知ですな、確かにそれもある。それと、水田から畑に戻すと 水分が残っているから大豆の品質と収量が減るんだ。水に弱いソバは、ほぼダメだな」
米関連の地元の卸会社にいるHが1つの試算を持ってきていた。
<水田10haを耕作している農家を想定した粗収入の試算だ>
この試算では、農家は10haの水田に主食米5.5ha、残りの4.5haを転作し、転作作物として飼料米と白大豆を作付した場合の2つのケースを示している。
米の反収を10俵(600kg)、白大豆の反収を200kg、単価は生産者手取を主食米13,000円(1等米)、飼料米を600円、白大豆を8,500円(2等)、また、JA等への販売の場合は、販売手数料が課税売上げにカウントされることから、その分を含め13%としている。これらの数字は山形県川西町の実勢価格と「JA山形おきたま」を参考にしている。
以下、JA等無条件委託・共同計算方式と業者等買取方式の試算結果を示す。
☆JA等無条件委託・共同計算方式
【ケース1 主食米5.5ha、飼料米4.5ha】
粗収入1(補助金あり):1214万(主食米823万、飼料米売上31万、転作補助金360万)
粗収入2(補助金なし):854万(主食米823万、飼料米売上31万)
【ケース2 主食米5.5ha、白大豆4.5ha】
粗収入1(補助金あり):1273万(主食米823万、白大豆売上146万、転作補助金304万)
粗収入2(補助金なし):969万(主食米823万、白大豆売上146万)
☆業者等買取方式
【ケース1 主食米5.5ha、飼料米4.5ha】
粗収入1(補助金あり):1102万(主食米715万、飼料米売上27万、転作補助金360万)
粗収入2(補助金なし):742万(主食米715万、飼料米売上27万)
【ケース2 主食米5.5ha、白大豆4.5ha】
粗収入1(補助金あり):1146万(主食米715万、白大豆売上127万、転作補助金304万)
粗収入2(補助金なし):842万(主食米715万、白大豆売上127万)
*「補助金なし」の粗収入2の試算は、5年間転作している水田に1度も水張りをしない場合であり、逆に水張りをした場合は粗収入1である。
10アールあたりの全生産費は、農水省生産費調査の10haから15haの個別経営で105,014円であるので、10haで主食米+飼料米を作ると1050万円かかる。また、5.5haの米、4.5haに白大豆の場合は、5haから10haの個人経営では10アールあたりの全生産費は109,490円であるので、5.5haでは602万、大豆の10アールあたりの全生産費は59,700円であるので、4.5haでは268万であるので、全体で870万になる。
補助金なしのJA等無条件委託販売と買取販売の粗収入は、ケース1(主食米5.5ha、飼料米4.5ha)では、JA等無条件委託・共同計算方式で854万、業者等買取方式で742万、ケース2(主食米5.5ha、白大豆4.5ha)では、JA等無条件委託・共同計算方式で969万、業者等買取方式で842万となっている。これらの粗収入と生産費を比べると、ケース1では、JA無条件委託販売で196万、業者買取で308万の赤字、ケース2では、JA無条件委託販売で99万の黒字、業者買取で28万の赤字になる。
現地卸業者の試算と農水省の生産費調査からの計算では、転作奨励金が廃止されれば、ケース2のJA無条件委託販売での99万円の黒字以外は全て赤字なのだ。
確かに、<奨励金なしで大豆や飼料米を作っても儲からないんだ。下手すりゃ赤字さ。赤字になるのに作る百姓はいない>のだ。
昔も今も、日本の農政は「猫の目農政」なのだ。いや、農政だけでなく国の政策を担う政治家や官僚や大企業は、将来の国のかたちよりも、目先の利益や自分の利益を優先しているのだ。
―これでは現場の農家はたまったものではない。このままでは、東京と地方の格差は拡大し、地方に人が住まなくなるばかりだー
この稿を書いている時に京都大の先生がAIに将来の国の形を聞いたら、「一極集中格差社会」よりも「地方分散型社会」のほうが豊かな社会になるとAIは予測したらしい。
「地方分散型社会」と「農業」は表裏の関係にあると僕は思うのだが・・・・
稲田宗一郎(いなだ そういちろう)