国は「10年後に目指すべき農地の効率的・総合的な利用の姿を明確化した地域の目標地図の作成」を法制化しました。しかし、現実には、この「目標地図の作成」には大きな問題があるのです。そこで、今回は、この目標地図について考えてみます。
目標地図の基本はデジタル地図であり国はeMAFF地図*を想定しています。また、目標地図の目的を「農地の集約化に重点を置いて、生産の効率化等に向けた利用関係(農作業受委託を含む)の再構築を通じて目指す具体的な農地の効率的・総合的な利用の姿を表したもの」と規定していることから、目標地図における対象農地の利用件設定、つまり、誰が誰の農地を耕作するのか分かるようにすることが必要だとしています。この関係を特定するためには、対象農地の1筆ごとの圃場(ポリゴン)とその圃場の所有者や耕作者、転作作物などが記載された台帳が1対1で繋がっていることが基本条件となります。しかし、多くの場合、圃場ポリゴンと台帳は1対1で繋がっておらず、この基本条件が満たされていないのが現実なのです。なぜ、このような事になっているかと言えば、デジタル地図が極めて扱いにくい性格をもっているからです。そこで、ここでは、この点について簡単に説明しましょう。
*eMAFF地図
デジタル地図を活用して、農地台帳、水田台帳等の農地の現場情報を統合し、農地の利用状況の現地確認 等の抜本的な効率化・省力化などを図るための「農林水産省地理情報共通管理システム」のこと。
デジタル地図の構造上の問題
デジタル地図は圃場の区画を示すポリゴンと台帳に記載された地名・地番を1対1でマッチングし、GISのソフトで地図上に表現する構造になっています。このマッチング作業が曲者なのです。
表-1は、佐賀県のある地区のポリゴン(圃場)と台帳に記載されている情報を示したものです。
表-1 ポリゴン(圃場)と台帳に記載されている情報
表-1では、圃場ポリゴンの地名・地番(久留間85、86)と台帳の地名・地番(久留間85、86)は1対1に対応しており、また、面積も同じ(5174、4673)ですから、GISソフトを使い、図-1のように圃場が特定でき、さらに、地図上の圃場、例えば大字久留間85をクリックすると、それに対応した台帳データ(5174、大豆、テンサク)を検索できます。
しかし、利用できるデジタル地図の多くは、表-1と図-1のように1対1で対応していないのが現実なのです。地図の中には、マッチング率が50%にも満たないデータも珍しくありません。
現実のポリゴンと台帳の状況事例(1対1に対応していない)
以下では、ポリゴンと台帳が1対1に対応していないいくつかの事例を紹介します。
〇事例1:同じ場所に6筆の圃場ポリゴンはあるが、これに対応する台帳データは無い。
久留間605はポリゴンと台帳があるので、1対1に対応しており地図上で確認できます。これに対し、久留間605の左側の久留間606、607、608、609-1、610-1、611-1の6つのポリゴンは地図上では同じ場所に表示されますが、これらのポリゴンに対応する台帳はありません。6筆の面積を合計すれば3142aとなり、現況の衛星画像に1つの圃場があるので、6筆の畔を外し1つの圃場として使っていると考えられます。この場合には、3142aの台帳を新たに作成することが必要になります。
〇事例2:耕区と現況が違うー同じ場所にポリゴンが4つ台帳が3つー
図の三角形で示した同じ場所に4つの圃場ポリゴン(久留間7-1、7-2、8-3、9-2)が重なっています。うち3つの圃場ポリゴンの地番(久留間7-2、8-3、9-2)は台帳の地番と1対1で対応していますが、地番7-1の台帳はありません。一方、4つの圃場ポリゴンのGIS計算上の面積は約2062aであり、3つの台帳の面積合計は2013aであるので、久留間7-1の圃場は農地として利用されず、また、残りの3筆は、畔を外し1筆として使っていると予想されます。これについては現地での確認が必要となります。
このように現場にあるポリゴンと台帳には様々な問題があるのです。このような問題を抱えているポリゴンと台帳のマッチングを民間企業でやるとなると膨大な金額がかかることになります。この問題を解決するためには、農業委員会を含めた地元の現地コーディネーターが、圃場ポリゴンと台帳の特徴をしっかりと理解し、圃場ポリゴンと台帳のマッチングが効率的かつ廉価にできるような仕組みを考えることが必要となります。この問題を乗り越えなければ、本当に役立つ地域としての目標地図の作成は難しいことになります。
稲田宗一郎(いなだ そういちろう)